下駄に何かが憑いている
「花火楽しみだね、太郎」
二華は夜空を見上げている笑顔を太郎に向けた。二華は赤色の着物姿と、かんざしで結った女の子らしいお団子ヘアー。太郎は白Tシャツと紺色の半ズボン、小学生男子らしい丸刈りヘアー。
「そうだね二華ちゃん! あと少しだ」
神社の十三段階段に仲良く隣り合って座る太郎と二華。神社の下は、屋台の灯りがキラキラと輝いていた。
「一緒に来てくれてありがとうね」
「え、いや、まぁ家が隣だし?」
二華は太郎の顔を見ながら、花火を楽しみに足をブラブラと振る。
太郎は頬を林檎飴のように赤くする。
「そうだね、家が隣だから? うん、隣で良かった!」
そう言って二華は足を大きく空に向けて振る。
すると、大きく振った足から下駄がすぽっと抜けて飛んでいった。
「あぁ……」
屋台の灯りに消えていった下駄へと向けた目尻に、二華は涙を溜め込んだ。
「二華ちゃん待ってて!」
「太郎、うっ……」
「亡くなった婆ちゃんの下駄なんだろ、俺が探してくるよ!」
太郎は立ち上がり、十三段階段を降りて行く。
下駄はお面屋の裏に落ちていた。太郎は赤色の鼻緒の下駄を大事に抱え、十三段階段を上がる。
五段上がったところで、太郎は背筋に気配を感じ振り向いた。深い赤色の着物を着た少女が三段に立っている。
(誰だか分からないけど、気にしないでおこう)
太郎は気にせず、十三段階段の頂上を見上げ、六段目に上がる。
背筋に気配を感じ太郎は振り向く。四段に少女が立っていた。
(誰だか分からないけど、気にしないでおくんだ)
太郎は気にしないようにし、十三段階段の頂上を見上げ、七段目に上がる。
背筋に感じた気配が消えず、太郎は振り向いた。五段に少女が立っていた。
太郎は振り向いたまま、八段目へと上がる。少女はジャンプし、六段目に立った。
「誰だよ、お前は!?」
太郎は少女に声をかけながら九段目へと上がった。少女は答えないままジャンプし、七段目に上がる。
「ええええいっ」
太郎は怖くなり、階段を一気に十一段上がった。少女は高くジャンプし、九段目へと立った。
太郎は恐る恐る十二段目へと上がると目を瞑った。恐怖が心を埋めるが、二華の顔が恐怖を打ち消す。
「えいっやぁぁぁ!!」
太郎は十三段目に登ると、神社まで一気に駆け抜けた。神社の賽銭箱の前に二華は座って待っていた。
太郎は抱えていた下駄を二華へと差し出そうとした。そこで体勢を崩し、転んでしまう。
「太郎!?っ」
立ち上がった二華の目の前に下駄が落ちる。神社の参道の上に落ちた衝撃で、下駄の鼻緒が切れてしまった。
太郎はすくっと立ち上がり、後ろを振り向いた。
「あれっいない……」
「太郎っ、大丈夫!?」
鼻緒が切れた下駄を持って二華は太郎に駆け寄った。
「二華ちゃん! 下駄……ごめん!」
「う、ううん、いいよ……足、大丈夫?」
太郎は擦りむいた足を擦り、二華と共に賽銭箱の前に座る。ぴゅーーーっと音が響き、夜空に白い尾が立ち昇る。
「ねぇ、太郎。さっきね、お婆ちゃんが見えた気がしたの」
「お婆ちゃん?」
「お婆ちゃんなのかな……赤色の着物を着てて……下駄が落ちたら消えてった気がしたけど」
空に七色の花火が上がり、二人は空を見上げながら話す。
「下駄、ホントごめんな……何だか俺、焦ってたようでさ」
「ううん、いいんだよ。お婆ちゃんがいなくて寂しかったけど、何だかもう大丈夫になってきた……今年は太郎がいるし」
二華は笑顔を太郎に向け、彼は顔を林檎飴のように赤くして俯いた。
下駄の鼻緒には、亡者が憑くという。
孫娘を心配していたお婆ちゃんも、今は安心して二人を見守っていることだろう。
神社の茂みの裏で、太郎の下駄の鼻緒に取り憑いている先祖達が、応援するように二人を見守っていることには誰も気がつかなかった。