がんじがらめの少年
両手首には手錠、右足には足枷がつけられた少年は、ぼろぼろだった。
継ぎ接ぎだらけの布切れを身にまとい、足には何も履いてない。 痩せ細った身体は傷だらけ。
暗闇の中、出口も入口も、右も左も分からない。それでも、少年は歩き続けていた。
無駄だと、闇が言った。少年は
「無駄じゃないよ」
と朗らかに返す。
少年の右足からは血が流れ、引きずって歩いている。
しばらくして、風が囁いた。
「坊や、もうおやめ。坊やはどこにも行けないよ。」
少年は首を振り、
「大丈夫、もうすぐ出られるよ」
自信たっぷりに答える。
そんな少年が不思議でならない風。
「どうしてそんなに自信を持って言えるんだい?」
「どうして?だって、僕はこの暗闇から外に出たいんだよ。」
呆然とする風に、今日は七夕だし、と笑顔で
付け加える。と、その時、少年の足枷が外れた。
願いがかなったわけではない。少年の足首が細すぎて、足から滑り落ちたのだ。
「ほらね!足枷が外れたよ!もうすぐだよ!」
少年の嬉しそうな声が闇夜に響き渡る。
いたたまれなくなった風は、ビュービューと向かい風を浴びせるのをやめた。
「気の済むまで頑張りな、坊や。
あんたの骨は私が拾い上げて空に流してやるよ」
通り過ぎていくか細い背中にそう呟き、風は、少年を暖かに送り出す。
少年は、向かい風がやんだことを喜び、今日はやっぱり良い日だと確信した。
出口が真近だという期待をもとに尚も歩き続けていく。
脚は震え、一歩ごとに体が左右に揺れ、今にも倒れそうだ。少年は、息が上がり、視界もぼやけている。
そんな少年を闇は無言で見守り続ける。
ドサリと音を立てて、少年は地面に倒れ込んだ。身体が悲痛の声をあげる。骨と皮とになった腕が身体を起こそうと必死にもがいている。
誰の目から見ても明らかだった。少年が起き上がれないのは。それどころか、少年の命はあと少しだった。
少年は立ち上がれないことを悟ると、諦めることなく這い始めた。軋み震える腕を、脚を、全身全霊かけて動かしていく。
そっと見守っていた闇が震え声で言った。
「もうやめよ、やめよっ!」
少年は力なく首を振り、右腕を前にだす。と、そのままバランスを崩し顎を強打した。腕は力なく地面に横たわってしまった。
乱れた呼吸で身体がより揺れる。はぁはぁと苦しげな声がどんどん弱まっていく。
口からは血が流れ、棒のように痩せ細った四肢は傷だらけ。足と手の爪には土血が混じり赤黒くなっている。
寸刻経て最後の息吹をした少年。驚くことに少年は穏やかな表情を浮かべている。
闇は泣いた。涙が粒となり、星屑となって徐々に固まり星になって、広がっていった。そう、闇は涙空になったのだ。
少年はあの暗闇から抜け出し、綺麗な夜空の下へ躍り出た。少年の願いは七夕の日に叶った。
いや、少年は願いを自分の力で叶えた。それがたまたま七夕の日だったというだけ。
風は、凪ぎ、沈黙が訪れた。一時、世界は止まった。風も星の瞬きも空気さえも。
その後、少年の亡骸は、風に突き上げられ、天高く、高く、翔んでいった。
飛翔した亡骸は、流れ星になって、
人々の笑顔を紡いだ。
七夕と言えば、短冊に願いを込めて書きますよね。
でも、願いを叶えるのは、その願いを書いたあなた自身に他なりません。
神頼みだけでは叶うことはないでしょう。
そんな非常と言えば非常な現実でひたむきに頑張る少年を描きました。
少し、グロテスクでわかりにくいかも知れません。
読んでくださりありがとうございます。