王城にて1
コンコン
「はい」
「私だけど、入っていいかな?」
「は、はい!どうぞ」
私はあわてて立ち上がり頭を下げた。
「クレア、今まで通りでいいよ」
「でも」
「とりあえず、顔を上げて」
頭を上げるとルドルフ様とライルさんが居た。
「で、いきなりで悪いんだけど」
テーブルをはさんでルドルフ様とライルさんが座る。
「魔王を探してるんだよね」
「はい」
「理由、聞いていい?」
私は考えた。そのまま話すか、誤魔化すか。
「私なら、君の力になれるかもしれないよ」
王子が力を貸してくれるというなら確かに、見つかる可能性は高くなるだろう。
しかし、
「どうして、手伝ってくれるんですか?」
いい話には裏がある。村のおばあちゃんが良く言っていた。
「まあ、理由としては私を助けてくれたからかな。そのお礼で」
「それと、魔獣討伐のお礼かな」
ルドルフ様とライルさんがそう言う。
「魔獣討伐に関しては私が無理矢理付いていっただけですし」
「それでも、ね」
私は正直に話すことにした。
「私は魔王を、魔王ダレンを探しているんです」
「ダレン!?」
予想していなかったのか二人は驚いたような顔をした。
「何でダレンを?」
「もしかして復讐?」
「ち、違います」
私は慌てて否定した。
「じゃあ、何で?」
私は少し俯いて話した。
「もう1度会って話がしたいんです」
「話?魔王と?」
ルドルフ様が聞いてくる。まあ、普通魔王と話がしたいという人間はいない。
「はい、彼ともう一度」
私は右手を胸の前で握りしめた。下を向いていたため2人が困惑した顔をしていることに気が付かなかった。
「ライル、彼女の話、どう思う?」
「どう、と言われましても」
ルドルフとライルは城内の廊下を歩きながらクレアとの話を思い出していた。
「おそらくは事実かと、魔王の名前はほとんど知れ渡っていませんから」
魔王がいるということは全員が知っていることだが、魔王の名前はほとんど知られていない。
「しかもダレンと来たか。噂程度でしか聞いていなかったが、活動していたんだな」
ダレンの名前は聞いていたが、実際に目撃情報等はほとんど無かった。
「だがこれで彼女の魔法がすごい理由が分かったな」
ルドルフの言葉にライルは首を傾げる。
「騎士団のお前は知らなかったか。魔術師団は時々魔力の濃い森などに行って訓練をするらしい。なんでも、濃い魔力のところにいると体内の魔力路が活性化するらしいんだ」
魔力路とは人間が魔法を使う際に魔力を通す道のようなものである。
「なるほど、魔王は言ってしまえば魔力の塊。それの近くにいたならば」
「ああ、そう言うことだ」
彼女のような存在を在野に遊ばせておくのはもったいない。
「何とか魔術師団に入隊させられませんかね」
「魔王ダレンの捜索を条件にすれば、王城にとどめておくことは出来るが」
「魔王の情報が手に入る場所?」
「はい、できればダレンの。他の魔王でもいいですが」
翌朝、私は部屋に来たルドルフ様に魔王の情報を手に入れられる場所がないか聞いた。
「過去のものであれば書庫に行けば記録があるかもしれないが」
「本当ですか」
私はうれしさについ、詰め寄ってしまい、慌てて離れる。
「ところで君は、字は読めるのかい?」
「す、少しは」
魔法を習い始めた時に少し習ったが、難しい文章だとまだ読めない。
「まあいいか、案内するよ」
私はルドルフ様の後ろに付いていった。
「ところで、どうしてそんなにダレンに会いたいんだい?」
「えっと、それは」
理由は簡単、好きだから。7年間ずっと彼を思い続けてきた。しかし、それを素直に言っていいものか。
「もしかして、彼に惚れた、とか?」
「え、いや、あの、その」
図星を突かれ、慌ててしまった。それを見たルドルフ様は少し驚いた顔をした後笑った。
「昨日の反応からまさかとは思ったけど、本当にそうだとは」
「やっぱり、その、おかしいですか?」
「普通に考えれば、おかしいだろうね。なんたって相手は魔王だし」
「うう」
私は下を向いてしまった。多分顔は赤くなっているだろう。
「でもいいんじゃないかな」
「え?」
私は驚いてルドルフ様を見る。
「私はいいと思うよ」
「ここか書庫だ」
「わあ」
目の前にはたくさんの本棚が並んでいた。本棚には本が所狭しと収まっている。
「魔王に関係するのは、この辺だな」
ルドルフ様がある本棚の前で足を止めた。そして、1冊の本を手に取った。
「これなんかどうだ?」
ルドルフ様が本を私に差し出す。
「ありがとうございます」
私はそれを受け取り、開いてみる。
「うっ」
開いてみて、私は顔を青くした。
(よ、読めない)
ところどころ読めるが、半分も読めない。分かる部分だけつなぎ合わせても意味がさっぱり分からない。
「やっぱり読めないか?」
「は、はい……」
ルドルフ様は少し考えると頷いて、
「じゃあ、私が教えてあげようか」
と言ってきた。
「え!?いえ、そんな、申し訳ないです」
「大丈夫だよ。ずっととはいかないけどね」
私はあわてて断るが、ルドルフ様は私が持っていた本を持って、近くのテーブルにつく。私も仕方なくそれに続く。
「それで、どれが読めないんだい?」
「えっと、まずは」
その日はルドルフ様に教えてもらい何とか1冊読み終わった。