再び魔王探し
私は新しい地図を買い町を後にする。目的地は特に決まっていない。ただ、いずれ王都にはいきたいと思ってはいる。とはいえまだまだ距離があるのでとりあえず近くの町を目指すことにした。
「ねえ、魔王について何か知らない?」
次の町でも同じように聞いてみた。
「魔王?こんな酒場に一人で来たと思ったら魔王だあ?」
前の町よりも小さいせいかガラが悪い連中が多かった。
「魔獣でもいいよ」
「魔獣なら」
男が話したのはこの間倒した魔獣のことだった。
「あそこはもう行った」
「はあ?魔獣を倒したってのか!?」
周りがどよめく。
「まあ、私1人じゃないけど」
騎士団と、とは言わなかった。言う必要性を感じなかったからだ。
「それじゃあ、他には知らねえな」
「そう、ありがとう」
私はそう言うと酒場を後にした。
私はまた森の中にいた。魔獣の報告がないだけでもしかしたらいるかもしれない。そんな淡い期待を持ってきてみたが。
「魔獣の気配もない」
魔獣のような声は聞こえない。聞こえるのは鳥のさえずりや動物の鳴き声、平和そのものだ。
「はあ、やっぱりいないか。っ!」
突然鳥が一斉に飛び立った。振り返ると男が二人いた。
「何の用?」
私は強めの口調で言った。
「何、あんたの手伝いをしてあげようと思ってな」
「結構よ」
すぐに逃げ出せるように魔法の準備をしておく。
「そんなこと言うなよ。それに俺らといた方が楽しいぜ?」
私は少しずつ後ろに下がった。
「なあ、こんな森の中誰も来ねえし、そろそろ楽しんじまおうぜ」
「それもそうだな」
男どもが距離を詰めてくる。
「一度楽しめば考えも変わるかもしれないしな」
(絶対にない!)
私は少し、また少しと後ろに下がる。背中を見せたら跳びかかってきそうだからだ。正直怖いとは思っていない。魔獣の方が何倍も強いからだ。
さらに距離を詰めた男の片方がハンマーを片手に跳びかかって。私は目の前に自分の2倍の大きさの氷塊を出現させる。
「な、なんだこれ!」
「こんなデカい氷塊を一瞬で作ったってのか!」
男どもが驚いている間に走って逃げた。
「はあ、はあ」
森を抜けてからさらに少し走った。一応街道のようだが現在地の正確な位置は分からなくなってしまった。とりあえず街道沿いを歩いていく。
しばらく歩くと村が見えた。
「てことは今がここね」
地図で現在地を確認する。
「嬢ちゃんどうしたんだい、こんなところに一人で」
村の衛士だろうか、入り口の初老の男性が声をかけてきた。
「訳あって旅をしているクレアといいます」
「ほう、その年で旅人かい。俺はクロイスだ。何もないところだがゆっくりしていくといい」
そう言うとクロイスさんは村の中に入れてくれた。ここは農村のようで故郷の村を思い出させる。だからといって寂しくなったりはしないが。
この村に外の人が来るのは珍しいのだろう。最初は私のことを見て驚いていたがすぐに笑顔で挨拶してくれる。
「良い村ですね」
「そうでしょう。土壌も豊かで不作もあまりないのよ」
畑を耕していた女性に話しかけた。
「でも最近はちょっとね」
「何かあったのですか?」
女性が困ったような顔をした。畑を見たところ凶作というわけではなさそうだ。
「最近山賊だか、盗賊だかが出てね、この村も何回か襲われたのよ」
彼女の話によれば近くに盗賊が住み着き、この村や近隣の村々が襲われているらしい。
「襲われるたびに若い娘や収穫したものが持ってかれてしまうのじゃ」
横から老人が声をかけてきた。
「其方がクロイスが言っておった旅人じゃな」
「はい」
「今日はこの村に泊まっていくのかい?」
少し悩んだ。この村におそらく宿屋は無い。しかし、次の町まで行くと途中で日が暮れる。
「止まるなら、わしの家を使うといい」
「良いのですか?」
「大丈夫よ」
私は女性の方を見た。
「村長の家は部屋が余ってるから」
「それでしたら、お言葉に甘えて」
私は今日の宿を確保した。
「しかし、わしから言っておいてなんじゃが、良かったのかい?」
「何がですか?」
私は村長の家で村長夫妻とテーブルを囲んでいた。
「盗賊の話じゃよ」
村長は顔を俯かせた。
「またいつ襲われるか分からん」
「国に救援は出さないのですか?」
こういう時の為の騎士団だ。ライルさんたちなら来てくれそうだが。
「出そうにも、書状を持ったものが襲われてはな」
届けられない、ということらしい。
「まあ、ここで泊めてもらわなかったら野宿になってしまいますし、宿がある方がましですよ」
それに多少の楽観はあった。さすがに魔獣よりは弱いだろう、と。
(まあ、私1人で討伐なんて出来ないけど)
「ところで其方はなんのために旅をしておるんじゃ?」
「ちょっとあなた」
夫人がたしなめる。女性のプライベートに踏み込むなということだろう。
「いえ、大丈夫ですよ。私は魔王を探しているんです」
「魔王を?」
突然外で鐘の音が響いた。
「奴ら、またきおったか!」
「盗賊ですか!?」
村長は頷く。
「其方は妻と共にそこにおれ」
村長は急いで外に出た。
「大丈夫かしら」
夫人の心配はもっともだ。
「すみません私も行ってきます」
「え!待ちなさい!」
私は制止の声を聞かず飛び出した。
会話と戦闘多いなー