閑話 次に向けて
「いやー、今日の魔獣もなかなか手応えあったな」
「確かに、クレアちゃんがいなかったら危なかったかもな」
「倒せはしただろ」
「けが人は出るだろうがな」
騎士団は今、酒場で食事をしていた。話の話題はもちろん今日の森の話だ。
「確かに、全員無傷は無理だったな。ある意味ついていた」
「クレアちゃんといえば、団長。あの子のこと随分気に入ったようですね」
「王都まで連れていこうとしてたみたいですし」
「まあ、断られたがな」
ライルが笑って流す。
「団長の誘いを断る女がいるとは思わなかったな」
「確かに」
団員たちが笑いだす。
「あの子の何をそんなに気に入ったんですか?」
「あれくらいの子なら王都にも、貴族の令嬢ならもっと上がいますよね」
クレアはどちらかといえば美少女の部類に入る。だが、王宮勤めの彼らからしてみればそこまでではない。
「別に容姿に光れたわけじゃない。彼女の目的がね」
「ああ、魔王を探しているっていうやつですか」
「そう、そこだ。最近魔王の話も王都では聞くが、彼女の村の話は聞いていない。なぜ、彼女が魔王を探しているのか気になってね」
「確かに、それは俺も気になりました」
ほとんどの団員が同意の色を示す。
「魔王を探す理由。大体は復讐ですよね」
「そうだな」
「となると、あの子の村は俺らが知らなかっただけで魔王に滅ぼさたと?」
「そうとは限らない。家族や友人を殺されたという可能性もある。しかし」
ライルは少し黙りこむ。
「あの子からは魔王に対する憎しみの様なものは感じませんでしたよね」
「そこなんだよな」
もし、魔王に村を滅ぼされたり、家族を殺されたりしたのであれば、言葉に憎しみや怒りが込められるもの。しかし、クレアの言葉からはそういったものはなかった。
「今、確認されている魔王って何がいましたっけ?」
団員の質問にライルは少し考え込む。
「確か、グレファス、リフィア、ダレンの3体だな」
「となると一番ありそうなのはグレファスですか」
「確かグレファスは破壊を楽しむ魔王でしたよね」
「そうだな。すでにいくつかの町が攻撃されたとの報告も来ている。他国だが」
「奴がこの国にも来たということでしょうか」
「まだわからない。だが警戒はしておいた方が良いだろう」
全員真剣な顔つきになる。
「他の魔王に関しては、多分ないな」
「そうですね。リフィアは割と温厚な魔王ですし、ダレンに関しては噂程度ですからね」
「そうだな。リフィアはもしかしたらあるかもしれないが」
「リフィアと友達になったとか?」
「魔王と友達?それはないだろう」
「無いだろうな、いくらリフィアが温厚な性格とはいえ魔王だぞ」
「そ、そうですよね」
完全否定されて落ち込む団員。一気に酒を飲み込む。
「まあ、俺らがここで何か言ったところで彼女に何かしてやれるわけでもないしな」
「それもそうですね」
「そうですよ。今はガンガン飲みましょう!姉ちゃん、2杯追加で」
そしてまた、他愛のない雑談に戻った。
「うーん」
私は今盛大に悩んでいた。
「うーん、んー、こっち」
私は店員さんに赤色のローブを渡した。
「はい、銀貨5枚です」
私は銀貨を渡す。魔獣討伐の手伝いということでお金を少しもらったから今は少し余裕がある。最初は勝手についていったのだからと断ったのだが押し切られてしまった。
私は受け取ったローブを着て店を出た。旅をする人はたいていローブかマントを着けているらしい。雨をしのげたりと何かと便利なんだとか。
私はそのあともいくつかの店を回り、必要なものをそろえていく。その中でも一番必要なのは地図。今持っているものじゃ多分また迷う。そして一番大切なことも。
「魔王について何か知らない?」
「魔王?なんだい嬢ちゃん。魔王を探してるのか?」
屋台のおじさんが訝しそうな目で私を見ている。
「魔王ねぇ。魔獣が出たって森があるけどあそこにいなければ知らないな」
あそこは魔獣しかなかった。
「そう、ありがとう。串焼き一本」
「毎度」
その後もあの森の話以外は聞けなかった。
「なあ、姉ちゃん。魔王探してるんだって?実は俺たち少し心当たりがあるんだがよ。」
ガラの悪い3人組が声をかけてきた。思いっきり私に向かっていやらしい目を向けている。その話が本当なら聞く必要があるが嘘くさすぎる。
「いえ、大丈夫です」
私はさっさと離れようとした。
「そんなこと言うなよ」
男の一人が肩をつかんでくる。
「離してください!」
私は暴れるが男の握力に勝てない。周りも見てみぬふり。
「ちっ、暴れんじゃねえ」
男の手に力がこもる。痛みを感じる。魔法で無理矢理吹き飛ばそうかと考えていると。
「やめろ」
肩の痛みが消えた。声のした方に目を向けてみると金髪のイケメンが男の腕をつかんでいた。
「ライルさん!」
「なんだてめえ!」
男はライルさんを睨み付ける。
「この子は俺の連れなんでね」
「あんたの連れ?ってててて!」
ライルさんが手に力を加えたのか痛がり出す男。
「ちっ」
男はライルさんの手を振りほどいて去っていく。
「大丈夫だったかい?」
「は、はい。助けてくれてありがとうございます」
私は頭を下げる。
「たまたま君を見つけて声をかけようとしたら、ガラの悪い連中に絡まれてたから驚いたよ」
私とカイルさんは近くのベンチに腰を下ろした。
「本当に大丈夫?」
「はい、強く肩をつかまれただけだったので」
ライルさんは肩を優しく撫でてくれる。
「やっぱり俺たちと一緒に王都に行かないか?魔王の情報も王都の方があるだろうし」
それは一理ある。しかし、私は自分で調べたかった。それにダレンに会ったときは私1人の方が良い。
「ありがとうございます。でも私は1人でいきます」
「そうか、分かった」
少し残念そうにするライルさん。
(ライルさんもしかして私のことを、いやいやそれはない。それに私にはダレンが)
しばらくこの町やこの近辺の話を聞いた後にライルさんと別れた。