森探索1
森の中は不気味な雰囲気だった。背の高い木が多いせいか日の光が地面まで届かず薄暗い。鳥や獣の鳴き声があちこちからする。私は騎兵団真ん中でさっきの青年の隣を歩いている。馬は森の入り口に置いてきた。
「そういえば名前聞いていなかったね。俺はライル」
「私はクレアです」
「クレア、どうして魔獣がいる森に入りたいって思ったんだ?」
どうしようか、素直に話すか。それともごまかすか。
「あ、話したくないようなことなら構わないよ。いろいろ事情があるだろうし」
私が黙っていたので言いたくないことと思われたのだろう。別に言いたくないことではない。町や村では結構話している。ただ相手が軍の人となるとどんな反応が来るか分からない。
「別に言いたくないことじゃないです。ただ」
「言いづらいと」
「そういうわけでもないんですが。あんまり詮索はしてほしくなくて」
「女性のプライベートを無理矢理聞きたがる奴はこの騎士団にはいないから安心していい」
騎兵団じゃなくて騎士団だった。
「では、私は魔王を探しているんです」
「魔王を?」
「はい、少し訳あって魔王を探しています」
「なるほど、だから魔獣がいるこの森に入りたいと」
「そうです、魔王がいるところには魔獣も出ると言われてますから」
魔王本人が言っていたから事実だが、そのことを言うのは憚られた。
「なるほどね。ここに魔王がいるかは分からないけどそういうことなら」
私たちは森を探索する。結構歩いたが好戦的な動物に数回遭遇はしたが、魔獣にはあっていない。もちろん私の出番なんてない。
「魔獣出ませんね。デマだったんでしょうか」
「まだわからない。最後まで気を抜くなよ」
日が傾きはじめ、森の中はさらに暗くなってくる。
「今日のところはこの辺にしよう」
森の入り口まで戻ってくる。魔王はもちろん魔獣にも会わなかった。
「まだ、いないと決まった訳じゃないから明日もまた来よう。それで合わなければ居ないといっていいだろう」
ライルさんが騎士団のみんなに言う。
「あの、私も明日来ていいですか」
ライルさんは少し困ったような顔をする。
「今日は仕方なかったとはいえ本当は駄目なんだが、……勝手に入られても困るからな、いいよ」
「ありがとうございます!」
私は勢いよくお辞儀をした。
その後私は町まで騎士団の方に送ってもらった。なぜかライルさんの馬に相乗りで。
着いた町は今まで見たものよりもずっと大きい。人の丈の10倍はありそうな外壁、入り口には門番と大きな扉。私はそれをぽかんと見上げていた。
「もしかして見るの初めて?」
「はい、こんなに大きい町は初めてです」
「ライル様。そちらの女性は?」
「彼女は森へ行く途中で迷子になっているのを見つけて保護したんだ」
「そうですか、して、名前は」
「クレアです」
それからいくつか質問をされてから中に入れてもらった。
「先に行っていてくれ。俺は彼女を宿に届けてから向かう」
「いえ、ここからは一人でも大丈夫です」
「この町も夜は治安が悪いからね。それに君、宿屋の場所知らないでしょ」
「うっ」
「だから送っていく、いいね」
「はい」
馬は騎士団の人に預けて宿屋に向かう。その間にいろいろ視線を感じる。
(騎士団のイケメンが女性と歩いていたら気になるよね)
宿屋につくとなんと宿代まで出してくれた。お金はあるからいいと言ったのに取り合ってもらえなかった。
「それじゃあまた明日」
「は、はい」
翌朝。
「なんであなたがここに?」
「なぜって君を迎えに来たんだよ」
宿を出るとライルさんがいた。
「そもそもどうやって俺らと合流するつもりだったんだい。森まではかなりあるよ」
馬でもそれなりにかかったのだ、歩いたら少なくとも半日はかかるだろう。
「だからって宿の前で待たなくても」
ここは人通りが多い。だからすごく目立っている。
「ここなら確実だろ」
「それはそうですけど」
「それじゃあ、行こうか」