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嘆きの魔女は愛する男に銃口を向ける  作者: 皇海宮乃
第九章 裁かれるのは誰
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9-1

 話し合いの場所は、学院長室へ移された。


 ニクラスがアルベルトに縄をうち、ルイーゼはメルセデスに替り、副学院長のギーゼラが縄をうっている。


 学院長の机を挟み、アルベルトとルイーゼは両側へ離され、王太子は学院長の横に立ち、ユリアーナはメルセデスと共に、扉に近い長椅子に並んで座った。


「まず、ユリアーナから話があるのですが、学院長、よろしいでしょうか」


 王太子は座した学院長の横に立ち、あくまでもこの場を差配するのは王立学院院長である事を言外に示していた。


「ユリアーナは、大丈夫ですか?」


 学院長は、事の次第を聞いていたようで、いたわるようにユリアーナに尋ねた。


「着席のまま話す事をお許しください」


 わずかに震えている手をメルセデスがいたわるように握り、ユリアーナは語りだした。ちなみに、フィーネとイリーネは院長室には入らず、ドアの前で様子をうかがっていた。

 中の様子が気になるからという事もあったが、事情を知らない人間が立ち入る事を見張る意味もあった。


「私は、王太子殿下のものという手紙を頂戴いたしました、……ルイーゼからです」


「ルイーゼ、今のユリアーナの言葉に誤りはありませんか?」


「はい、学院長、ユリアーナの言う通りです、そして、その手紙は、殿下から預かったものではありません、私が偽造したものです」


「異議あり!」


 そこでアルベルトが手をあげた。


「アルベルト、異議を認めます、どうぞ」


「象牙の塔から来たばかりのルイーゼに、王太子殿下の手紙を偽造する事はできません、ルイーゼがユリアーナに渡した手紙は私が偽造しました」


 ルイーゼは、アルベルトをかばおうとしたのだろうが、アルベルトがそれを否定した。


「ルイーゼ、今のアルベルトの言葉に偽りはありませんか?」


 学院長の問いかけに、ルイーゼは素直に謝罪した。


「……はい、申し訳ありません」


「では、ユリアーナ、続けて下さい」


 学院長に促されて、ユリアーナが続きを語り始めた。


 手紙に導かれて実験室へ言った事、そして、そこでルイーゼに会い、偽物の手紙で呼び出した事を謝罪された事。


 …そして。


「私は、自らルイーゼに協力を申し出ました、ルイーゼが、王太子殿下と直接の交渉を望んだからです。つまり、人質騒ぎは狂言だったのです」


 背筋を伸ばして、しかし、真っ直ぐに、ユリアーナは言った。


「私は、自らの意志でルイーゼに協力いたしました、殿下を謀った罪はいかようにもお受けいたしますが、ルイーゼには、どうか寛大なご処置を」


 そして、深々と頭を下げた。


「ユリアーナ、あなたが、己の身を危険にさらし、かつ、殿下を謀る事がわかりながらも、彼女に協力しようと思ったのは何故ですか」


 学院長が尋ねると、ユリアーナは顔をあげた。


「私は、かつては女王陛下を弑し奉ろうとした一族の娘です、本来であれば、殿下の妃候補には立てない身の上でした。……しかし、マルガが、私の戒めを、思い込みを解いてくれました、私は、許しをいただきました、ルイーゼも、縛られていました、アルベルト先生への思いに、戒められた思いを解くには、必要な事なのだと思いました」


 一息に言って、そして一呼吸置いて、続けた。


「けれど、私のそんな軽率な行動から、ゲルトは傷つきました、ルイーゼやアルベルト先生を罰するのであれば、私も罰されなくてはなりません」


 メルセデスは、ユリアーナの言葉を聞きながら、震える彼女を抱きしめ続けていた。


 学院長は、ユリアーナの懺悔を聞いた。

 王太子は、表情を変えず、学院長の横に立ち続けていた。

 アルベルトだけが、鎮痛な顔で俯いていた。


「もう、やめて下さい、こんな茶番は」


 ぽつりと、アルベルトが言った。


「全ての原因は私です、私がルイーゼを操り、ユリアーナを利用して、殿下をたばかった、二人に罪は無い、俺が謀反人として断罪されれば、それで終わりです、今、ユリアーナとルイーゼを責めるのは間違いです、殿下、許されるのならば、今、帯びている剣で、どうか私を切ってください」


 しかし、王太子、レオンハルトは言った。


「そんな簡単には終わらせない、先生、あなたは言うべきだ、あなた自身の気持ちと、やりたい事を、学院長、発言を許していただけるだろうか」


 学院長が頷くと、王太子レオンハルトが威厳をもった面持ちで言った。


「今回の件、私は全員の話を聞くべきだと考えて、この場を設けていただいた、アルベルトとルイーゼを断罪して終わると、私は思っていない、原因を取り除かねばならない、何故、事が起きたか、大元の原因を取り除かなければ、このような事件は再び起こる、王族が学院で学べるよう、我が妹が学友を作る事ができるよう、女王陛下は女子入学の門戸を開いた、終わらせる事はいつでもできる、続ける事に痛みをともなうのならば、皆で傷つかなくてはならないだろう、だから、アルベルト先生、あなたも語るべきだ、あなたが、何故、このような事を起こしたかを」


 メルセデスは、茫洋で人の良いだけが取り柄だと思っていた王太子が、思いがけず厳しい口調で言い切った事に少し驚いていた。もしこの場に、マルガがいても、多分同じように思っただろう。


「頼むよ、先生」


 厳しく言った後に、王太子レオンハルトは生徒の顔に戻って重ねて言った。


「……殿下」


 アルベルトとレオンハルトの間がどのようなものなのか、メルセデスにはわからなかった。しかし、アルベルトの講義をとっていないにも関わらず、彼の研究室で楽しそうにしている二人を見かけた事はあった、と、思い返していた。


「正直なところを言えば、マクシミリアンを担ごうとする閨閥がいるのなら、大事になる前に火消しをしたいんだ、私は、ユリアーナもそうだろう? 事を起こして、背後にいる人物を引っ張り出したかった、違うかい?」


 ユリアーナは目を伏せた。


 もしそう言われたのがイリーネだったら、全力のドヤ顔をしただろう、と、メルセデスは思いながら、ユリアーナの聡明さ、そして、思いがけない豪胆さを垣間見たような気がした。


「私は悲しいよ、能力はともかく、信頼に足りる王太子だと自負していたからね」


 優しげな王太子の様子に、ついにアルベルトが折れた。

 アルベルトの語る言葉は、おおよそメルセデスの想定したものだった。


 やはり、黒幕はメルセデスの父、ハーゲンだったのだ。


 狙いは、アルベルトの技術力、ルイーゼの火薬調合術、そして、王太子を廃して弟、マクシミリアン殿下をかつぎあげるという野望だった。


 メルセデスは、武器商人としての父についてはそれほど驚かなかったが、まさか、王太子のすげかえまで目論んでいるとは想定していなかった。


 父は、利にさとい人間ではあったが、特定の政治的思想には偏らないだろうと思っていたからだ。


 アルベルトの話は終わった。


 ずっと姿が見えないと思っていたニクラスの相方は、王太子の命令で王宮へ行き、憲兵をひきいてハーゲンを捕らえるべくヴァッフェ商会へ向かったが、すでに国外へ逃げた後だったという。何者かが、ハーゲンへ形成不利である事を知らせたのか、虫の知らせで動いたのかはわからない。


 アルベルトは逮捕されたが、遠からず釈放されるのではないかという事だ。ハーゲンを捕らえる事ができたならば、証言台に立つ事もあったろうが、現状それは難しいらしい。


 そして、ルイーゼについては王立学院での教師を引き続き行うよう命が出た。


 ゲルトがケガをしたのはあくまでも事故として処理され、ルイーゼの行動は不問になった。


 全てが収まるところへ収まっていった。


 王立学院は教師を一人失ったが、短期予定のルイーゼが長期配属という形で穴を埋める事となり、アルベルトについては裁判後、身の振り方が決まるだろうという事だった。


 技術者としての仕事については続けられるだろうが、教育者としての復帰は難しいだろうというのが、学院長の予想であり、皆、おそらくそうなるだろう、と、思った。

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