8-4
ニクラスには、手が足りなかった。
銃を取り上げたので、当面の危険はないだろうと、志願したメルセデスにルイーゼを任せ、ニクラス自身はアルベルトを拘束したまま、一つだけある牢へアルベルトを閉じ込めた。
メルセデスとルイーゼは、ニクラス達護衛官の詰め所で待機をしていたが、ルイーゼには抵抗する様子は無かった。
「……ルイーゼ……どうして、こんな事を」
メルセデスがルイーゼに率直に尋ねた。
ルイーゼは、顔色を変えずに、ルイーゼの足元あたりをじっと見たまま微動だにしなかったが、ぽつりと、つぶやくように言った。
「メルセデス、あなたは、アルベルトの妻になるのでしょう?」
「それは……断りたいと、あなたの手紙にもそう書いたはずでしょう?」
「でも、アルベルトは聞きいれなかったんでしょう?」
まるでメルセデスとアルベルトのやりとりを見ていたかのようにルイーゼは言った。
押し黙っているメルセデスに、ルイーゼはひとりごとのように言った。
「……アルベルトは、誰も愛さない、愛せないと言ったの」
ルイーゼは、さらに続けた。
自分が、アルベルトを愛している事を。
そして、アルベルトが誰も愛さないのならば、自分も一人でいる事にしたのだという事を。
「メルセデス、男の時計と、女の時計は違うの、アルベルトが、かつてそう言って私を拒んだ時に、それならば、私は女でいる必要は無いと思った、だから、時計をそのまま進めた、でも、アルベルトはそうじゃなかった」
一息にそう言ってから、ルイーゼはメルセデスを見た。
「あなたは、若いわ、メルセデス、若く、そして、美しい」
「何を言ってるの、ルイーゼ、あなたの方がずっと」
そう、メルセデスが言うと、ルイーゼはかぶりを振った。
「でも、アルベルトが選んだのはあなただった」
その時、ルイーゼは、とてもむずかしい顔をしているように、メルセデスに見えた。
「……選んだのが、あなたでなければ、多分私、アルベルトを選んだ女を殺していたわ」
メルセデスは、それでルイーゼの気持ちがおさまるのなら、そうされてもいいかもしれない、と、一瞬だけ思った。
「ルイーゼが、私の替りに私のやりたかった事をしてくれるなら、殺されてもいいよ?」
「バカね、あなたは殺せないって言ったでしょう? ……メルセデス、私は、アルベルト以上にあなたの事も大好きなのよ」
そう言って笑うルイーゼの半泣きの顔は、なんて美しいんだろう、と、メルセデスは思った。




