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混乱極める実験室、最も冷静だったのは恐らくエラだった。
ありったけの桶に水を汲みおいておき、銃に水をかけた。
ユリアーナはニクラスによって確保されたのち、フィーネとレオンハルトの元へ。
そして、ルイーゼはメルセデスによって銃をとりあげられた。
幸い、一発はなたれた銃弾は、アルベルトを確保したゲルトの肩をかすめるにとどまった。
マルガが合図を送ったあの一瞬、ルイーゼは、ユリアーナでもレオンハルトでも無く、アルベルトを狙った。
取り押さえられ、呆然とするルイーゼが、アルベルトを見つめると、アルベルトは自嘲気味に微笑んで、おとなしくゲルトによって腕を拘束されたのだった。
かくして、ルイーゼによるユリアーナを人質とした立てこもり事件は迅速に解決した。
ルイーゼとアルベルトは別々に軟禁状態になったが、レオンハルトは憲兵を呼ぶことはしなかった。
学院内には自治が認められている。
司直の手に渡すよりも先に、学院長による采配を望み、現場をニクラスに任せると、学院長室へ向かった。
「アルベルト先生が、考えも無くこのような事をするとは思えません、まずは話を聞いてから、その上で決めたいと願います」
立場上、もっと上から言うこともできただろうし、愛する婚約者の命を危険にさらされた事で、一時的に感情的になったレオンハルトであったが、尊敬する教師が、自分ではなく弟の方が跡継ぎにふさわしいとしたのであれば、その理由を確かめずにはいられなかったのだ。
そして、マルガは、傷をおったゲルトの側にずっとついていた。
ゲルトの血が流れた時のマルガの取り乱しようはひどいものだった。
一般的に女は男に比べて血に慣れているとはいえ、弾丸による傷だ。幸い、弾はかすっただけではあるが、火薬の匂いと、血の匂い、そして、痛みに耐えるようにうずくまるゲルトの姿は、マルガの正気を失わせるのに充分な効果があった。
エラが、泣き叫ぶマルガの横面をひっぱたき、冷静にさせ、二人がかりでゲルトを医務室へ運び、フィーネは、ユリアーナを連れて一旦部屋へ戻った。所在無さそうにしていたイリーネもそれに従い、ゲルトに変わってアルベルトを拘束したニクラスと、ルイーゼを拘束したメルセデスが共に、牢のある護衛官の詰め所へ向かった。




