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「殿下、いいじゃありませんか、ユリアーナは正式な婚約者では無いのです、御身を守る事が第一です、どうか、この場からお引き下さい」
唐突なイリーネの言葉に、レオンハルトは鼻白んだ。
「バカな、何を言っているんだ、イリーネ、私は彼女以外の女性を妻にするつもりは無い」
イリーネの、ひいては、指示を出しているフィーネの、ではあるが、意図を汲めないレオンハルトが反論する。
しかし、フィーネとしてもそこは折り込み済みだ。
王太子が芝居がかった様子を見せれば、ルイーゼもすぐに異変に気づくだろう。まずは、中にいるルイーゼの意識を引きつける事が大切だ。
一方、イリーネの方は、既に意中の相手では無いとはいえ、王太子からキツく言いかえされて、既に心が折れかかっている。救いを求めるようにフィーネを見たが、フィーネはイリーネを奮い立たせるように肩を引き寄せて、フィーネ自身もこう言った。
「殿下、今、この場で、このようなやり方で取引をもちかけられたと、ユリアーナが知れば、恐らく我が身を投げ出しても殿下を守ろうとするでしょう、イリーネの言う通り、この場からどうか、お下がりを」
「フィーネ……そなたまでそんな事を! 君は、ユリアーナの親友では無かったのか?」
「親友だからこそ、です。もし今、殿下の御身に事有るならば、ユリアーナ自身、己を許せないでしょう、真実彼女を思うのであれば、どうかこの場は」
ぐいっと、フィーネがイリーネを前に押し出すと、イリーネも続けた。
「王族としての務めを、どうか身をもってお示し下さい」
イリーネとフィーネが、レオンハルトの説得を始めると、実験室の中で、人が動く様子があった。メルセデスは、フィーネの意図を察し、研究室側にニクラスが近づいているのを見た。
それは、王太子の背後の出来事で、イリーネとフィーネに気をとられているせいか、王太子自身も気づいていない。
静かにニクラスが鍵を開け、中に入る。
ドアのところに控えていたマルガは、アルベルトの不在を手振りでメルセデスに伝えた。
メルセデスは、マルガの動きに呼応するように、実験室側に聞き耳をたてる。
男の声を、確かにメルセデスは聴いた。
王太子に気づかれないように、メルセデスはマルガに近寄る。
「……恐らくだが、アルベルトも実験室側にいるようだ」
現状、ルイーゼがユリアーナを人質に立てこもっている中、同じ場所にいて、なおかつ、その存在を隠している意図は一つしか無い。
メルセデスは、自分のやるべき事を決めた様子で、実験室の扉に取り付いた。
マルガは、メルセデスを止めなかった。
既に事は進み始めていた。
今、声をあげて、ゲルト達を止める事はできない。
ゲルトとニクラスが、研究室側の扉に手をかける。
合図を送るのはマルガだった。
研究室側の扉を、ゲルトとニクラスが開くのと同時に、メルセデスも実験室の扉を開けた。
と、同時に、隠れていたエラが飛び出して、フィーネと共に王太子を実験室から離す。
イリーネは自力で我が身を守為、走り去った。
パァァン! と、一発大きな音がして、ゲルトがアルベルトを、メルセデスがルイーゼを、そして、ニクラスがユリアーナを確保した。




