プロローグ
色とりどりの炎があった。
「火の色って、同じなんだと思ってた」
少女は、いくつも灯された明かりの異なる色々に目を輝かせていた。
やせっぽちで、目ばかりが大きい、薄く、量も少ない茶色の髪は短く、ざんばらで、色白の少女は、常であれば、青ざめ、こけた頬の病がちな娘だったが、今は、好奇心からか、生き生きと目を輝かせていた。
「燃やすものによって違うのよ」
そう言って、また一つ明かりを灯す。今度は緑色。
次々を明かりを灯すのは、少女よりも年上の、しかしまだ、女性というにはいくらかあどけなさの残る少女だった。
こちらも、色白という意味では同じだが、漆黒の艷やかな髪を持ち、その瞳には知性の明かりが灯っている。
次々と色の異なる炎を見せる姿に、やせぎすの少女は、年上の少女の事をまるで魔女のようだと思った。
「これって、燃やしてみないとわからないのかな、何色なのか」
目をきらきらと輝かせて、黒髪の少女の見せる魔法のような光景に魅せられてしまったやせぎすの少女は、ねだるように黒髪の少女の装束の袖を掴んだ。
「そうね、私も色々試したけれど……、あなたはまだ小さいし、では、一緒に一つずつ、確かめていきましょうか」
黒髪の少女にそう言われて、やせぎすの少女、メルセデスは、めいっぱい元気よく、
「うん!」
と、うなずいた。
少しせきこみ、コホコホと息苦しそうにするメルセデスを、黒髪の少女、ルイーゼがさする。
幼いメルセデスにとって、ルイーゼは姉のような、師のような、かけがえのない存在だった。
ルイーゼのようになりたい、その強い願いは、メルセデスの病がちだった身体を健やかなものへと変えていった。