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姉妹さん、ご来店。




「お会計千ゴールドになります。……はい、ちょうどですね、ありがとうございましたー!」

「ありがとうございましたー!」


あずさちゃんがお客さんのお会計を終えたので、俺も一緒に見送りの言葉を送る。今日はそこそこの人が店に来店してくれた。

だが、もう時間も遅くなってきたので、これからは客足が減るだろう。


「先輩、最近お客さん増えたんじゃないですか? もしかしたら、店の前に行列が出来る日も近いかもしれませんね!!」

「そうなってくれたら嬉しいよ? でも、お店の前に行列をつくる前に、お会計の前に行列をつくらないとダメだねぇ……」


そう、増えてきたと言っても店内にお客さんが三人以上いるときすら滅多にない。今のままでは店の前にお客さんが並ぶなど夢のまた夢だ。

地道に頑張っていくしかないだろう。お客さんが増えたのは確かなんだから。


「仕方がないですね。こうなったら私が一肌脱いで、看板娘としてお店の前でお客さんを呼び込むしかないようですっ!!」

「……うーん、変なお客さんが増えても嫌だからやめてほしいな」

「私がちょっと本気を出せば、街一番の商売店になることも夢ではありませんよ?」

「俺の夢はあずさちゃんが大きく立派に育ってくれることだから、本気なんて出さなくていいよ。それよりも、大家さんから貰った料理本でも読んでた方がいいんじゃない?」

「ふっふっふっ、見くびらないでほしいですね。貰った翌日には一通り読み終わりました!! あとは実践あるのみですよっ!!」


結構な厚さの本だったと思うけど、読破した後だったんだな。

でも、一度目を通したぐらいで頭に入るものか?

料理する際には、しっかりと本を片手に持ちながら作って欲しいんだけど……、不安だ。


「あっ、お客さん来ましたよ。いらっしゃいませー」

「……やほ」


店の扉を開けて来店したのは、最近会う機会が多かったダッカさんだった。

片手を上げ簡単な挨拶とともに、会計台の前まで歩いてきた。


「いらっしゃいませ、ダッカさん。今日もポーションを買いに来られたんですか?」

「……それもある」

「それも、ですか?」

「……付け」

「……あぁ、そういえばありましたね。それでは、ポーションの値段に足しておきます」


以前、お菓子を買ったときに足りなかった分のお金を払いにきてくれたらしい。

とても良いお客さんだ。

あずさちゃんが看板娘としてお客さんを呼び込んでも、ダッカさんほど義理堅い人もなかなか来ないだろう。


「……他にも」

「他にも、何かあるんですか?」


「…………早く来る」


ダッカさんにはまだ何か用件があったようで、店の扉の方に顔を向けて誰かに呼びかけるように声を発した。すると扉が少し開き、先日一緒に街の掃除をした海人族の女性が恐る恐る店内に入ってきた。


「……あ、あの、お邪魔いたしますわ……」

「……い、いらっしゃいませ、カカさん……」


とても気まずい。

あの時の出来事が頭に過ぎってしまう。彼女の下着を見てしまったこと、バーサーク状態の彼女に襲われたこと、ダッカさんに間一髪で助けてもらったこと。

何でダッカさんと一緒に店に来たんだ? 会話するにしても、お互い得にならなそうなことしか話せないぞ……。


「……き、今日は改めて先日のお詫びをしようかと思いまして……」

「あ、あぁ、いえ、別に気にしなくていいですよ。結局何もなかったわけですし」

「ですが、お姉さまに止めていただいていなければ、あのまま……」

「それを言うなら、俺の方こそカカさんを危ない目に合わせてしまった、というか恥ずかしい想いを……」

「い、いえっ!! 私こそあんな、はしたない真似を……」

「いや、やっぱり俺が……」

「いえ、私が……」


「…………はぁ、少し落ち着いたらどうですか? 先輩とカカさん、でしたか。おそらく先輩が悪いんでしょうけど」


カカさんと二人して謝り倒していると、あずさちゃんが会話を収めてくれた。でも、俺が全ての元凶になってしまったみたいだ。喧嘩両成敗といった形で収めてくれたら有り難かったんだけど……。


「ですが、私が……」

「いえ、カカさん。恥ずかしい想いも、はしたない真似も、女性にさせた先輩がいけませんっ!!分かっていますね、先輩!!」

「……はい、すみませんでした」

「本当に反省していますか?」

「……はい、俺が悪かったです……」


「ならば、アパートに帰ったら先輩には私が恥ずかしい想いと、はしたない真似をします!! あるいは逆でも可としましょう、よろしいですねっ!?」

「うん、分かっ…………いや、それは分からないよ?」

「何でですかっ!?」


危うくあずさちゃんの謎理論に頷きそうになったが、それとこれとは話が違うだろう。

全く、油断も隙もない子だ。でも、たまに鋭いことを言うからなぁ。


「あずさちゃんが言ったとおり、カカさんにああいうことをさせてしまった俺も悪かったんで、あのことはもう忘れませんか?」

「……てんが、それでいいのであれば……」

「カカさんがあのようになってしまったのは、俺が血を流したからですよね? こうして話していても大丈夫みたいですから」

「はい、あのときは貴方の血に反応して、この子が目覚めてしまったみたいなので」


何で俺の血に反応したのかは分からないけど、これから気を付ければいいだけだ。一緒に冒険をするわけでもないし、それほど警戒する必要もないだろう。


「なら今後、カカさんの前では血を流さないように気を付ければ……」

「えっ、それはー……」

「……カカさん……?」

「い、いえ、何でもありませんわ!」


……仮にカカさんと冒険をするようなことがあれば、モンスターに近づかないようにしよう。前だけでなく後ろにも気を付けなければならなくなりそうだ。


「……一件落着」「ですね!」


横を見ると、あずさちゃんとダッカさんがコップを持ってお茶を飲んでいた。ハイタッチもしている。

……いつの間に仲良くなったんだ、そんなに面識はなかったはずなのに。


「ダッカさん、お菓子も食べます? とっておきのものがあるんですけど」

「……ん」

「それじゃあ持ってきますね!」


食いしん坊同士、気が合ったんだろうか。あのあずさちゃんが、自分のお気に入りのお菓子を他人に与えるとは……。一応、仕事中だから平気でお菓子を食べようとしないでほしいんだけどな。


「あっ、カカさんも一緒にどうですか? たくさんありますから、遠慮しないで大丈夫ですよ!」

「え、ええ、それでは、ご一緒させていただきますわ……」

「先輩も休憩ついでにどうです?」

「……はぁ、俺はいいよ。食べるならミートインか休憩室にしてね」

「はぁーい!!」


彼女たちはミートインでお菓子を食べることにしたみたいだ。カカさんだけは本当にいいのかしらと思惟しつつ参加しているようだが、他二人は足取り軽く楽しげにお菓子を広げている。

……もうお客さんも来なさそうだし、好きにさせてあげよう。冒険者のお二人さんも楽しそうだ。


「まぁ、このチョコ菓子とても美味しいですわ!!」

「……甘甘」

「先輩に頼んで取り寄せてもらったんです! さぁさぁ、こっちもよかったらどうぞ!!」

「こちらのお煎餅もパリッとして美味しいですわ!!」

「……旨辛」

「先輩のお気に入りの煎餅なんですよ! まだまだありますからね!!」


また、太るんじゃないか……?





「さぁ、今日の朝ごはんはサンドウィッチですよー!」

「……シーチキンサンド多くない?」

「作ったものの特権ですっ!!」


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