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店主、勇者宅へ。。




「よく来てくれてたな、店主!!」

「ふぉっふぉっ、よう来たの」

「どうも、お邪魔してます」


シスターさんから屋敷の一室に通された後、しばらく待っていると勇者さんとヴァンさんがやってきた。勇者さんは普段着ている鎧を脱いで私服姿だしヴァンさんもローブを羽織っていないので、今の二人の姿は少し新鮮だ。

……だけど二人共、額が赤くなっているぞ。シスターさんに杖で小突かれでもしたんだろうか。


「お茶とお菓子をお持ちしましたので、よかったら食べてください」

「ありがとうございます。……このクッキーは、シスターさんの手作りですか? いろいろな形のものがありますけど」

「はい、……お口に合うかわかりませんが、よろしかったらどうぞ」


シスターさんが小食を持ってきてくれたが、クッキーの形が星だったり、ハートだったり、真ん中に穴が開いていたりとバリエーションが豊富だ。

早速一口食べてみよう。


「……おぉ、すごく美味しいです! ウチの店に置いてあるものよりもよっぽど味もしっかりしていて、サクッとした感触もほど良く感じられますね。」

「……ありがとうございます。まだありますので一杯食べてくださいね」


流石はあずさちゃんが目標とする女性だ。全く弱点らしい弱点が見つからない。

あずさちゃんは彼女に近づくことができるんだろうか……。


「そうだろう、そうだろう。シスターの作るお菓子は街で一番上手いからね!!」

「ふぉっふぉっふぉ、そうじゃの。シスの料理にハズレはないからのぉ」

「勇者様達は少し遠慮してくださいね」


「「………………」」


勇者さんとヴァンさんは、シスターさんの料理の腕前を自慢しながらお菓子に手を伸ばしていたが、彼女に釘をさされると大人しく縮こまった。

やっぱり、一つ屋根の下で暮らしていると女性が一番力をつけるんだな。


「それで、勇者さん。面白いものを見つけたって話でしたけど、何を見つけたんですか?」

「ふっふっふ、よく聞いてくれた!! 実はね…………これなんだよ!!」

「それは?」


勇者さんは部屋の端に備え付けられていた棚に向かい、棚の上に置かれていたものを取ると、こちらに見せ付けるように差し出してきた。


「カードゲームですか?」

「ああ! ちょっと変わったゲームでね。せっかくだから四人でやろうと思って店主を呼んだんだ!」

「む? 儂等もやるのか」

「まだご飯の準備をしていないのですが……」

「まぁまぁ、ヴァン爺もシスターも座って座って。人が多いほうが楽しいからね!!ルールもそんなに難しくないからさ」

「「…………まぁ、それなら……」」


勇者さんに言い包められて皆で座って輪を作り、カードゲームをすることになった。

ゲームなんかあんまりしたことないから、勝てる気がしないんだけどなぁ。


勇者さんがカードの束を掴むと、カードを配りながら俺達に説明をしてくれた。


「まず、初めは皆、手札を二枚ずつ持つんだよ。順番に手番が回って、自分の手番のときに山札からカードを一枚引いた後に、カードを一枚を使うんだ。それぞれのカードにはいろんな効果があるから、最後まで残っていた人が勝ちだよ。あと、自分の手札が無くなっても負けだからね」

「ルールだけ聞くと簡単そうですね」

「ふむ、そうじゃの。細かい駆け引きはなさそうじゃ」

「私にもできそうです」

「うんうん、でしょ! それじゃぁ、早速始めてみようか!!…………ふっふっふ、みんな甘いな……」

「何か言いました、勇者さん?」

「いやっ、何でも無いよ! じゃあまずは僕の番から始めるね!!」


勇者さんが山札からカードを一枚引いて、手札を見て考え出した。俺も自分の手札に書かれている効果を確認したが、よくわからないことが書かれていた。

ちらりとヴァンさんとシスターさんを見ると二人も困惑しているようだ。


「勇者さん、これって……」

「それじゃあ、出すよ。『アイシクル』のカード!! このカードを出すと他の人達は手番が二回休みになるんだ!! 」

「いや、勇者さん……」


いきなり反則級のカードを出されたけど、このカードゲームむちゃくちゃじゃないか?

俺の手札にも、『使ったら全プレイヤーは敗北する』だとか、『自分を表す言葉を言ってはいけない』とか、カードゲームとしてどうなんだろう。


「それじゃあ、また僕の番だね! 一枚引いて……それじゃ、カードを裏に伏せてっと。みんなでジャンケンしよう!!」

「……ジャンケンかのぉ?」

「うん! 行くよ、ジャンケン、ポン!!」


勇者さんだけグーを出し、俺とヴァンさんはパー、シスターさんはチョキを出した。

……今度はどんな効果が待っているんだろうな。勇者さんが嬉々として伏せていたカードを表にして、効果を読み上げる。


「よし、『メテオストライク』の効果でグー以外を出した人は、負けだね!! ということで、この勝負は僕の勝ちーー!!」

「「「………………………………」」」


「うん? どうしたの、みんな?」


勇者さん以外は、何ともいえない顔で勝ち誇っている勇者さんを眺めている。あまりにも理不尽すぎて、文句も何も出てこない。このカードゲームを作った人はいったい何を考えて作っていたんだろうか。


「……ユウよ、もう一度やろうではないか」

「おっ、いいよヴァン爺。それじゃあ、カードをシャッフルして……」

「いや、それは儂がやろうかのぉ」

「えっ? い、いいよ、僕がやるから……」

「ふぉふぉ、負けたものが罰として労働を負うべきじゃろう」

「…………でも……」

「何じゃ? 別に誰がシャッフルしてもいいじゃろう。それとも、自分でシャッフルせねばいけない理由でもあるのかのぉ……?」

「…………お願いします」


カードのシャッフルを自分でやりたがっていた勇者さんから、ヴァンさんがカードを受け取る。勇者さんはしぶしぶ諦めるようにカードを渡している。

さては勇者さん、自分に良いカードが来るようにイカサマをしていたな……。


ヴァンさんはもとより、シスターさんも気付いたみたいで勇者さんを胡乱げな目で見つめている。勇者さんは素知らぬ顔でそっぽを向いている。

何とか勇者さんを負かしてやりたいな。


「それでは二回戦目といこうかのぉ」

「最初はさっき勝った僕からだね! 勝った人から始めるルールだから!!」

「……そんなルールありました?」

「ふぉふぉふぉ、まぁよかろう。それではユウからじゃな」


俺は全く聞き覚えの無いルールに異議を唱えたが、ヴァンさんには何か考えがあるようで、再び勇者さんから始まってしまった。

また、変なカードをいきなり出してくるんじゃないか?


「ふっふっふ、僕から始めさせたのが運の尽きだったねっ!! またみんなでジャンケンだ!!」


勇者さんが一枚カードを伏せて、再びジャンケンをするように言い放った。

また『メテオストライク』のカードか? でもそれならグーを出さなければいいだけじゃないか。……でも、勇者さんの表情から何か不吉なものを感じる。


「いくよ、ジャンケン、ポン!!」


勇者さん以外はグーを出し、勇者さんはなんとチョキを出した。皆の手を見た勇者さんは顔を伏せて、笑っている顔を出来るだけ隠すように手で覆っている。

やっぱりさっきのとは違うカードなのか?……それにしても、腹が立つ仕草をしてるな。


「はっはっはっ、やっぱりみんなグーを出したねぇ!! 『メテオストライク』だと思ったんだろうけど残念だったね、今度は『ウィンドストライク』だ!! チョキ以外を出した人の負けだよ!! はっはっはっ、また僕の勝ちだ!!」


やはり、さっきとは違うカードだったのか。だけど、もしかしたらということを考えてグー以外を出せなかった。また勇者さんに負けてしまうとは……。

だが、決着が着いてしまったと思われたとき、賢者が起死回生の行動を起こした。


「ふぉっふぉっふぉ、では儂はこれを出そうかのぉ」

「はっはっ、は…………ヴァン爺、もう僕の勝ちは決まったよ?」

「よく儂のカードの効果を見てみぃ」

「…………なになに、『ホーリーフォックス。直前に出されたカードの効果を無効にする』だって……っ!? そ、そんな……」

「では、次はシスの番じゃな」


ヴァンさんが出してくれたカードのおかげで、まだ勝負を続けることができた。勇者さんは勝ちを確信した後だったためか、手を床に着き打ちひしがれている。

よし、しばらく勇者さんの番は回ってこないな。次に勇者さんの番になるまでに俺達のだれかが彼を倒せれば、もうそれで勝ちでいいだろう。


「は、はは、はっはっは、だけどまた僕のターンが回ってきたときに、このカードで…………っ!!」


「では、私は『キャットウォーク』のカードを出します。勇者様、手札を二枚もらえますか」

「…………へ?」

「それでは失礼します」


シスターさんが出した『キャットウォーク』のカードの効果を見ると、『任意のプレイヤーからカードを二枚奪う』と書かれている。

自分の手札を見て今度こそはと意気込んでいた勇者さんは、シスターさんが出したカードを見て唖然とした表情を浮かべたまま、シスターさんに残りの手札を全て取られた。

……ということは。


「手札を全て失ったプレイヤーは」「その時点で負け」「だったはずじゃのぉ……」


「………………う、うわあぁぁぁぁん……!!」


俺達が勇者さんに敗北した現実を告げると、勇者さんは再び床に崩れ落ちた。勇者さんを倒した後は、平和的にゲームを続け何だかんだで皆で楽しめた。


たまには、皆で遊ぶのも楽しいな。今度はあずさちゃんや大家さんともやってみよう。




「もう一回、もう一回お願いっ!!」

「もうご飯の時間ですから、食べてからにしましょう」


「ふぉふぉふぉ、なるほどのぉ。なかなか面白いゲームじゃ」

「その余裕崩してみせるからね、ヴァン爺!!」

「受けて立とうではないか」


「ご飯いらないんですか?」

「「……食べます……」」


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