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アイドルのギルド体操。。




…………あぁん!? ウチの妹になにしようとしてんだっ!!


咄嗟に反応してその男に向かって走るが人が多く、男にぶつかって倒れている人もいるのでなかなか追いつくことができない。

このままじゃ、あの男がアイちゃんのところまで辿り着いてしまうっ!

必死に走っている俺の前でとうとう男が高台に辿り着き、上にいるアイちゃんに手を伸ばそうとしている。


この野郎、させるかっ!!


「ア、ア、アイちゃん、ど、ど、どうかあくしゅぶっ…………!!」

「……取り押さえました。警備兵に引き渡しに行ってきます」


俺は履いていた靴を脱いで男に投げようとした。しかしその直前に、高台の後ろに控えていた黒服達が男を取り押さえてくれた。

黒服達の一人が男を地面に押さえ込んだまま、広間の端にいた警備兵のところまで連れて行く旨をアイちゃんに伝えている。


「ちょっと待ってもらえませんかっ!? あの……」


だが、アイちゃんは高台から降り、その取り押さえた男の傍で両膝を着いて男の手を取った。


「……いつも王都のライブに来てくれてますよね?」

「え?」

「今日もわざわざ朝の体操に参加するために王都から来てくれたんですか?」

「……う、うん」

「いつも応援ありがとうございます。あなたのようなファンの皆さんに支えてもらっているから、私はアイドルでいられるんです」

「アイちゃん……」


「でも、私のせいであなたや他の人が怪我をしてしまうのは嫌です……。だから、こんな無茶はしないでください。自分を大事にしてください、ね?」

「…………ア、アイちゃん、ご、ご、ごめんよーーーっ!!」



男は頭を地面に着けながらアイちゃんに謝り、そのあと自分の足で警備兵の下まで歩いていった。

こうやって、アイドルとしてのアイちゃんを見るのは初めてだが、ファンになってしまうのも分かるな。

どこか遠くで『あぁ、優しすぎますアイさんっ!! 私は恥ずかしいっ、その心中を測り損ねた私の穢れた心がっ!! あの男性を羨ましいと思ってしまった自分自身がっ!!』と聞き覚えのある声が聞こえてくる。

あの人も引き渡した方がいいんじゃないか?


アイちゃんが男を見送り、男の暴走で少し混乱しているこちら側を振り返る。すると、男を追ってきて、投げようとした靴を手に持ったままの俺と目が合った。


「…………お兄さん?」

「…………やぁ、アイちゃん」


この呼びかけに返事をしたらファンの人達は騒ぐだろうなと思いながらも、アイちゃんに見つめられ呼ばれてしまっては返事せざるをえなかった。

おそらくアイちゃんも、思いがけない場所で出会ったことで無意識に呼んでしまったんだろう。


「……っ、来てくれてたんですね!!」

「うん、知り合いの人と一緒にね」

「あっ、私の格好、変じゃないですか?」

「可愛いと思うよ。……もうちょっと肌隠していいとは思うけど」

「あはは、実はちょっと恥ずかしいんです……」


「おい、誰だあの男は……?」

「アイちゃんと親しげに話しているぞ……」

「あんなに近くで、あの男……っ」

「何で平気で彼女と話せるんだっ、緊張というものを知らんのかっ!?」

「アイちゃん、女の子の顔してる……。ねぇねぇ、もしかして」

「あんたも思った? これは、もしかしたらもしかするわよ……!!」

「私達が全力でサポートするしかないわねっ!でも、もし私達のアイちゃんを泣かせるようなマネしたら……」


案の定、後ろが騒ぎになっているのが分かる。

……背中に視線がビシビシと感じるな。


「あっ、いけない。私、また行ってきますね!!」

「うん、がんばってね。俺も参加させてもらっているから」

「はい!!」



「みなさん、少しだけ騒ぎになってしまいましたが、あとちょっとなので、体操一緒にがんばりましょうね!!」

「「「「「はぁーーーい!!」」」」」


アイちゃんが高台に戻ったので、俺も後ろに下がってアイちゃんのお仕事を邪魔しないようにした。

そして、厄介な人に捕まった。


「…………てん君、どういうことだい?彼女とお知り合いだったのかい?」

「何度かお店に来てもらったことがあるだけですよ」

「てん君、私も君の店で雇ってくれないかい?」

「……心が穢れてますよ」

「そんなはずないじゃないかっ!!あるのは彼女の目に一瞬でも私を映してほしい、というピュアなマイハートだけさ」

「下心を感じるのでダメです」

「そこを何とか、頼むよ!! 働いた時間に対してお金払うから!!」

「奉仕の押し売りも断ってます」


オカさんの求人応募をお断りしていると、ギルド体操も終わりに近づいていた。


「みなさんお疲れ様でしたーっ!!」

「「「「「ゎぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」」」」」

「今日で終わりではなく、これからも継続してがんばりましょうね。私もまた先生役としてくることが出来たら嬉しいです!!」

「「「「「ゎぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」」」」」


「今日はありがとうございました!!


 ─────みなさんの今日が、幸せで優しい一日でありますように」



アイちゃんが集まっている人達に向けて、祈るように言葉を紡んだ。朝の横日が高台の上のアイちゃんを照らし、その場にいた人達はただその姿に見惚れているようだ。そして、彼女は高台から降りる前に年相応の可愛らしい笑顔を浮かべ手を振っている。


皆も手を振り返していたが、アイちゃんが一言置き土産を残していった。


「お兄さんもまた参加してくださいねーーー!!」

「…………………………はぁーい」


俺も手を振り返す。

周りの視線が俺に集まる。

この広場に来たばかりの時なら、『お兄さん』が誰を指していたのか分からなかっただろう。でも、今のこの広場にいる者達の多くは気付いている。


アイちゃんの『お兄さん』が誰なのか。


「おい、やっぱり聞き間違いじゃないよな……?」

「あぁ、でもアイちゃんにお兄様などいたか?プロフでは見たことないが……」

「なぜそんな羨ましい関係に……」

「………お兄様、僕にアイちゃんをくださいっ!!」

「あっ、抜け駆けすんなテメェ!!」

「やっぱり。彼女のあの表情、心からあの人をお兄さんと慕っているんだよ……」

「……驚いたわね。今までの彼女は華やかながらも、どこか影を帯びた不思議な魅力を漂わしていたのに……」

「そう、彼女は花。花は光と額縁があって初めて芸術になる……。ふふっ、なるほどね。そういうことなのね……」


既にアイちゃんは黒服に囲まれて、広間を去ってしまった。

このままここにいても良くない結果しか招かないだろう。


「「「「「あの男は一体アイちゃんの何なんだっ、直接聞くしかない!!!!」」」」」


「てん君、私のことをお兄ちゃんと呼んでくれるように頼んでくれないかい?」



…………さぁ、逃げよう。





「先輩、朝から汗だくでどうしたんですか?」

「ちょっと、体操、してきて、ね……………」

「てんくーん、何とか頼めないかな?」




「……お兄ちゃん」

「てん君に言われても…………、いやアリかな」

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