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勇者さんダンジョン攻略。




「「「ああぁぁぁああああああーーーーーーーっ!!!!」」」


……どれだけ滑ったんだろうか。十秒も滑ってなかった気もするし、三十秒以上滑っていた気もする。

でも、やっとその時がやってきた。


「うわぁっ!! ……っぐふぇっ……!!」

「ふぉっ!?…………む、すまんの、ユウ」

「あっ!?…………すみません、勇者さん」


「…………早く上からどいてくれないか、二人共……」


滑り落ちていた俺達は、再びしっかり立てる場所まで落ちることができたらしい。どうやら、そこそこな広さのある大広間みたいだな。

そして、落ちてきた勢いのまま勇者さんの上に乗ってしまったようだ。……ごめん、わざとじゃないんだ。

でも、どうやら俺とヴァンさんの足は勇者さんに引っ張られていたようだった。

つまり落ちた原因は……。


「勇者さん、道連れにしましたね?」

「そうじゃな、儂等の足を引っ張りおったな?」

「…………目の前に掴まれるものがあったらしょうがな、いことはないよね?」


なにやら反論してきそうな勢いだったけど、俺とヴァンさんの視線に方向転換したようだ。まったく、やる気になったらなったで、問題を起こす勇者様だ。

でも、ここはどこだ? どれだけ滑り落ちてきたんだろうな。

二人にこれからどうするか相談しようとしたときにヴァンさんが声を上げた。


「むむ、ユウよ。あの台座の上にあるのは宝箱ではないか?」

「……っ、本当だ!! やっと見つけたぞっ!!」


確かに宝箱が台座の上にあるな。

だけど、いかにも怪しい感じだ。……特に、後ろに鎮座している石像が。

だけど勇者さんは全く疑う様子を見せず、宝箱に向かっていった。


「とうとうたどり着いたな! さぁ、宝箱の中には何が入って…………っ!!」


勇者さんが宝箱に手をかけようとした。そのとき、後ろの石像が動き出し、勇者さんに近づいた。彼は急に動いたそれに驚いたように後ずさり、こちらまで戻ってきた。


「て、店主っ! あれもモンスターなのかっ!?」

「……あれはシュゴレムです。どうやら宝箱を守護しているみたいですね」

「なら、あいつを倒せばやっとお宝を手に入れられるんだな」

「まぁ、そうですね……」

「よし、これが最後だ!! 今度こそ行くぞーっ!!」


勇者さんが聖剣を構えながら、シュゴレムへ向かって走っていった。

今日、何度目か見た光景だな。


「店主殿、やつは一体どんなモンスターなんじゃ?」

「シュゴレムはその硬さで有名ですね」

「ほぉ、見るからに硬そうじゃしな」

「でも、そのガタイに似合わず気が弱い子が多いんですよ」

「……ふむ、どういうことじゃ?」

「ああいうことですね」


勇者さんの方を見ると、勇者さんとシュゴレムがにらみ合っている。


……勇者さんとシュゴレムがまだにらみ合っている。


…………勇者さんとシュゴレムがまだまだにらみ合っている。


………………勇者さんとシュゴレムがまだまだまだ……。


「……っ、何で動かないんだっ! 来ないならこっちから行くぞ!!」

「…………っ!」


勇者さんが動いた。

しかし、勇者さんが聖剣を振り上げると、シュゴレムがビクッと怯えたように震え、それでも宝箱を守ろうと勇者さんの前に立っている。

どっちが勇者か分からないな。盗人と騎士みたいな構図だぞ、勇者様。


「…………うっ!!」


そして、それを見て勇者さんも聖剣を振り下ろせずにいる。無抵抗の敵に切りかかることができないようだ。


「~~~~っ、店主!! こいつはどうすればいいんだ!?」

「その宝箱より価値のありそうなものなら、宝箱と交換してもらえるはずですよ」

「……僕はそんなもの持ってないぞ……」

「ふむ、儂もこの杖以外はあいにく、それらしいものは持っておらんのぉ」


勇者さんは聖剣を戻して倒すことを諦めて、物々交換できないものかと頭を悩ませている。

……うん、勇者さんにこれを売ってあげよう。


「勇者さん、俺からお菓子買いませんか?」

「お菓子? …………そのお菓子は宝箱と交換してもらえるかもしれないのか?」

「はい、おそらくですけど」

「自身なさげじゃないか……。でも、買った」

「はい、まいどありがとうございます。お代はまた帰ってからでいいので。それでは、……じゃじゃーん、チョコウセキです!」

「…………鉱石の形をしたチョコ、なのか? どこでこんなの仕入れてくるんだ……」


それは企業秘密だ。たぶんシュゴレムには気にいってもらえると思うんだけどな。

あずさちゃんの反応はいまいちだったけど。


「シュゴレム、どうかこれと宝箱を交換してくれないか?」

「………………」

「……ダメだろうか?」

「………………」


勇者さんがチョコウセキをシュゴレムに差し出し、シュゴレムはじっと勇者さんを見ている。しばらく見合った後、シュゴレムが勇者さんの前に両手の掌を上に向けゆっくり下ろした。

よかった、彼はチョコウセキをお気に召してくれたみたいだな。


「……交換してくれるのか? ……ありがとう」

「………………」


シュゴレムは勇者さんからチョコウセキを受け取り宝箱の前からどいてくれた。

そんなに大切に受け取ってもらえると嬉しいじゃないか。地下なら溶けることもないと思うから、大事にしてあげてくれ。


「今回の目的達成ですね」

「……やっと辿り着いた。…………店主、ヴァン爺、開けるぞ!」

「ふむ、何が入っておるのかのぉ……」


俺達は宝箱の前に立ち準備はいいかとお互いの顔を見て、勇者さんが宝箱を開ける。


宝箱の中には…………。


「…………何だこれ?」

「ただの白紙の紙に見えますね」

「……ふむ、特に何か仕掛けがあるわけでもないようじゃのぉ」


「……………………」


宝箱の中には一枚の白紙の紙だけ入っていた。勇者さんは呆然として、白紙の紙を掴んだまま意識が飛んでしまっている。

だが、改めて宝箱の中を確認していると、宝箱のふた裏に何か書かれた紙が張られているのを見つけた。


「勇者さん、ふたの裏に何か書かれていますよ?」

「……っ、なに!? 何が書かれているんだっ!!」


勇者さんが、やはりまだ何かあったのかと息を吹き返した。

さて、何が書かれているのかな。


「えーと、なになに、『ここに白紙の紙があります。その紙に貴方の夢や願いを書きなさい。それが貴方の宝になるでしょう。忘れてはいけません、貴方の宝は彼方の心に。』…………だそうです」


「……………………………ぷぁは」


勇者さんが壊れてしまい、変な発声が口からこぼれた。

目的の宝がこれじゃあなぁ。仕方ないよな……。


流石に頑張ってきた勇者さんがかわいそうだ。




~~~~~~~~~~~~




その後、俺達が出口を探していたところ、シュゴレムが階段がある場所を教えてくれた。おかげで、壊れた勇者さんを引き連れて、無事にダンジョンから抜け出すことができた。

また来る機会があったら、彼にチョコウセキをたくさん持って来てあげよう。


「ふぉふぉふぉ、久々の外じゃのう」

「ですね、何とか夜までには街に帰れそうです」

「……じゃが、あやつをどうしたものかのぉ」


「………………………ぷぁ」


相変わらず訳が分からない声を発している勇者さん。

……苦労してお宝を見つけたと思ったら、ただの紙一枚だもんなぁ。シスターさんのために今日は頑張っていたけど、その気持ちも崩れ落ちてしまったんだろう。


「勇者さん、そろそろ戻ってきてください。……それとも、もう諦めちゃったんですか?」

「…………うっ、でも……」


まぁ、今から別のプレゼントを探している時間もないだろうしな。

……そうだな、せっかくだから有効活用してもいいかもしれないぞ、勇者さん。


「勇者さん、シスターさんに喜んでもらえるかもしれないものが一つあるんですけど」

「…………何だ?」

「こういうのはどうですか?………………というのは」

「……だが、そんなもので良いのか?」

「大切なのは勇者さんがどういう気持ちで渡すのか、ですよ」


シスターさんならよっぽどのものでもない限り喜んでくれるとは思うけどな。

それが勇者さんからなら、なおさらだ。


「…………そうか、……そうだな」

「頑張ってくださいな」

「……ふっ。あぁ、頑張ってみるよ」


勇者さんが少し元気になったし、後は街に帰るだけだな。

そこで、俺達を呼ぶ声が聞こえた。


「みなさーん、おかえりなさいませっ!! お待ちしておりましたーーっ!!」


「「「……………………あっ……」」」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~




俺達は再び馬車に揺られて街まで帰り、街門前で馬車から降りた。御者君はとても良い笑顔で、またいつでもお声をかけてくださいと俺達に伝え、手を振り街中に消えていった。


「…………もう、我慢しなくて、いいだろうか……?」

「……はい、もう見えなくなりましたよ」

「…………うおぇぇぇ……」


「儂も、もう、疲れ果てて、しもうたのぉ……」

「俺も、帰ってゆっくりしたいです……」


御者君には情けない姿は見せまいと耐えていた勇者さんが、やっと自由になれた。すでにダンジョンの冒険で疲れていた俺達には、もうそれに耐えうる力は残っていなかったみたいだ。

しばらくそこから動けなかったが、何とか調子を整え勇者さん達と別れを告げる。


「それじゃあ俺もアパートに帰りますね」

「また、一緒に行けるといいのぉ。なかなか楽しかったぞ」

「……機会があればそのうち、ですかね」

「うむ。そのときを待っていようかの」


「今日は本当に助かったよ。ダンジョンのことにしても、プレゼントのことにしても」

「喜んでもらえるといいですね」

「……うん」


俺は勇者さん達と手を振って別れ、アパートまでの帰り道を歩く。

勇者さんは、シスターさんにプレゼントを渡すことを想像して、少し緊張していたようだ。

がんばれ、勇者さん。


また後日、どうなったのか聞いてあげよう。




~~~~~~~~~~~~~~~~~




「…………シスター、少しいいかな?」

「どうされました?」

「あぁ、ちょっと、今日、何というか…………」

「今日? 今日はヴァン様と修行に行っていたのですよね?」

「そ、そうなんだけど、日ごろのお、お礼でもと……これを」

「……え、『一日何でも言うこと聞きます券』……ですか?」

「い、いやっ!?も、もっとちゃんとした物を用意しようと思ったんだけどダンジョンに潜って宝箱を見つけたら中身がただの紙だったからどうしようか考えて仕方なくっ……!!」


「……ダンジョンに潜ってたんですか?」

「……っは!! ダ、ダンジョンで修行してたんだ!!」

「本当ですか?」

「ほ、本当だよ」

「……もしかして、私のためにですか?」

「…………ぅ」


「…………ありがとうございます」

「シ、シスター?」

「嬉しいですよ、本当に」

「そ、そうか、よかった」

「でも、私がいないときに危険な場所に行かないでください。危ない目にもあったのでしょう?」

「そ、それは……」

「……今度は私も連れて行ってくださいね?」

「…………うん、今度は一緒に行こう」


「この券は大事に取っておきますね」

「え、別に早く使ってくれてもいいんだけど」



「だって、────もったいないですもん……」




『ここに白紙の紙があります。その紙に貴方の夢や願いを書きなさい。それが貴方の宝になるでしょう。忘れてはいけません、貴方の宝は彼方の心に。』

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