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勇者さんダンジョンへ!




何とか地下ダンジョン前までたどり着いた。

急いだ甲斐もあって、予定よりも早く着いたみたいだ。


「…………」

「…………うぉぇ……」

「…………寿命が縮んだのぉ……」


「あれ? 皆さんどうされました?」

「「「……………………………」」」


ダンジョンに潜る前に思いがけないダメージをもらってしまったけど。

しかも、本人には自覚なしだ。

これはしっかりと注意しておかないと、彼のためにならないだろう。

……そして帰りの俺達のためにも。


「……御者さん、馬車の運転についてなんですけど……」

「は、はい! 実は僕、皆さんが初めてのお客様で、どうでしたかっ!? ……僕の運転はヘタではなかったでしょうか……?」

「…………っ」


非常にキラキラした目で初めてのお客さんだと言われ、一転して叱られることに怯える子犬のような表情で見つめられる。

……俺には言えない。お客さんを乗せるには危険な運転だ、なんていえない。

チラリと勇者さんを見てもヴァンさんを見ても、全く視線を合わせてくれない。

逃げやがったな、この勇者達。


「い、いえ大変刺激的で愉快な馬車旅を送ることができましたよ? ただ、もう少しのんびり……」

「本当ですかっ!! わぁーっ、嬉しいですっ!! 初めて乗ってくれたのが皆さんでよかったですっ!!」

「…………うん、俺達も君の馬車に乗れてよかったよ……」

「……っ、ありがとうございます!! 帰りも任せてくださいっ、皆さんをしっかり街までお運びさせていただきますっ!!」

「……よろしくね」

「はいっ!!」


無理だ、諦めよう。

彼の笑顔を泣き顔に変えることなど俺にはできっこない……。

勇者さん達を見ると、仕方ないと言いたげに沈痛な面持ちでうなずいている。

……帰りは覚悟を決めよう。今度は心構えができるんだ、多少マシだろう。ポジティブに考えろ、俺。


「それでは皆さん、どうか頑張ってきてくださいっ!!」

「「「行って来ます……」」」


御者君に見送られて俺達はやっとダンジョンに入っていく。

あぁ、アパートが恋しい。




~~~~~~~~~~~~~




「おぉ! ここがダンジョンなのか。……意外と湿気た場所だな」

「どこもこんなものだと思いますよ?」

「何かもっと、こう、おぞましい気配が漂ってたりするものだと思ってたんだけど……」

「街からそこまで離れているわけでもないんで、そんなダンジョンがあっても困ると思いますよ」


まぁ、ただ薄暗く細長い通路が続いているだけみたいだし。

そんなに危険そうな場所だったら、勇者さん達と一緒だからと言っても来てなかったぞ。


……ダンジョンか。本当に久しぶりだな。


「ふむ、店主殿。どういう風に進んでいけばいいんじゃ?」

「……そうですね、ヴァンさんを挟んで前に勇者さん、後ろに俺で行きましょうか」

「よし、任せてくれっ! 僕が全部倒してやろうっ!!」


本当、いつにもまして気合が入ってらっしゃる。

罠とかには気をつけて欲しいんだけど、大丈夫か……?

でも、俺が前に居てもしょうがないしなぁ。


「分かれ道があったら、とりあえず全部右に進みましょう。もし行き止まりだったら、戻って左に進んでそれを繰り返しましょうか」

「ふむ、了解じゃ」

「ダンジョン攻略開始だなっ!!」


それから勇者さんを先頭に入り口から真っ直ぐ進んでいくと、早速分かれ道があった。

あらかじめ決めておいて良かった。ダンジョン内で迷子になんてなりたくないからな。


しかし、あずさちゃんも小さいときはよく迷子になってたなぁ。その度に何度大家さんと探しに行ったことか。それが今やあんなに大きくなってくれちゃって……。

…………ホームシックになっているのか、俺?


俺が色々と思いふけっていると、進み続けていた勇者さんが立ち止まり、こっちに手で合図していた。

何か発見したみたいだな。


「……っ、何か前から飛んでくるぞっ!?」

「……あれは、吸血バットですね」


今日初めての、ダンジョンでのモンスターとの戦いだ。


「吸血バットはその名前の通り、相手に噛み付き血を吸い取ります。吸う血の量はわずかなので大したことはないんですけど、噛まれた部位が……」

「なら、噛まれたとしても別に気にしなくていいわけだなっ! 行くぞっ!!」

「あっ、いえ、できるだけ噛まれない方が……」


「うぉおおおーー!!」

「キーキーッ、キキーッ!!」


勇者さんが聖剣を構え、吸血バットの群れに突撃してしまった。

勇者の鎧もあって、上手く噛まれずに群れと戦っているが、何匹か近くまで飛び込まれてしまっている。


「ふんっ、何のこれしきっ!! うおりゃぁーー!!」

「「「キ、キキーッ、キーーッ!!」」」


おぉ、聖剣を体に引き込むように構えてから、周りをなぎはらうように聖剣を振り回して吸血バットを吹き飛ばしてしまった。

今日の勇者さんは一味違うようだ。とても輝いているぞ。

だが、数が多いようでなかなか減らない。……っ、勇者さん危ないっ!


「……っ勇者さん、上にっ!!」

「くっ、離れろぉーー!!」


勇者さんの真上から気づかれないように近づいていた一匹の吸血バットに、とうとう勇者さんの首が噛まれてしまった。


「勇者さん、一度戻ってきてください! ヴァンさんの魔法でひとまず追っ払いましょう!」

「まだ僕は戦えるぞっ! 多少噛まれたぐらいで……っ、くぅぅっ……!!」

「むっ、ユウよっ!! どうしたっ!?」


勇者さんが噛まれた場所に手をおきながら、うめき声を上げ膝を着いてしまった。

ヴァンさんは勇者さんを心配し、今にも駆け出しそうになっている。


「───っ、ユウッ!!」


「…………か、かゆっ、痒ーーーっ!!!」


「…………店主よ、どういうことじゃ?」

「吸血バットは血を吸う量は大したことないんですけど、噛まれた部位が痒くなってしまうんですよ」

「……なるほどのぉ……」

「なので、吸血バット達に火魔法を放ってもらえますか? 彼らは火に弱いので、すぐに逃げていくはずです。」

「了解じゃ」


『……ファイアーボール!!』

「キーッ!? キキーッ、キーーーッ!!!」


ヴァンさんの火魔法が吸血バット達に放たれると、彼らはダンジョンの奥に鳴き声を上げながら逃げていった。

何とかなったな。後に残ったのは相変わらず痒い痒いと声を上げている勇者さんだけだ。

俺はかばんから店で用意していたものを出し、勇者さんに差し出す。


「勇者さん、これどうぞ。かゆみ止めです」

「……くぅぅっ、痒いっ!! ……っ、自分で塗れない! 店主、塗ってくれっ!!」

「…………はぁ、じっとしててくださいね?」


痒さで手が震えて上手く塗れない勇者さん。

仕方なく、勇者さんの首にかゆみ止めを塗ってあげる。

まったく、全部聞く前に勝手に飛び出しちゃうから……。


「…………ふぅ、助かったぁ」

「ユウよ、儂は情けないぞ……」

「うっ、な、何とかなるかなって……」

「気をつけてくださいよ? かゆみ止めにも限りがあるんですから」


「……………はい、すみません」




「キーッ、キキーッ(ぺっ、マズイ血だったぜっ)!!」

「キーキーッ、キキーーっ(贅沢言うなよな、吸えただけいいだろっ)!!」



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