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後輩ちゃんの授業参観。。




授業参観当日。


「行ってきます……」


あずさちゃんが今日も肩を落としながら学校へ向かった。彼女には今日俺が学校へ行くことは伝えてない。大家さん曰く、サプライズだそうだ。

……成功するかどうか心配なんだけどな。


「てん、これを着ていけ」


そう言って大家さんが手渡してきたものは、あずさちゃんの学校の制服男子バージョンだった。

俺がこれを着るのか。不審者に間違われないか心配なんだけど。


「……大家さん、どこで手に入れてきたんですか?」

「裏口からだ」


お金でも積んだのか?

着ていくものに困ってたから、助かるんだけど複雑だな。



「着替えてみたんですけど、どうです?」

「おう、似合ってる似合ってる」

「……本当ですか?」


顔を背けながら言われてもな。

本当に変じゃないだろうか……。


「…………てん」

「何ですか?」


気づけば真剣な表情でこちらを見ていた。


「叱ってきて上げな」

「────はい、いってきます」


しっかり後輩ちゃんの生徒っぷりを見に行ってやろう。




~~~~~~~~~~~~~~




俺は少し緊張しながら学校の校門前に立っている。


「俺の格好は傍から見たらどう見えるんだろう。本当、大家さんどこからこんなの持ってきたんだ……」


校門前で心の準備を整えている俺の横を、おそらくここの生徒ではないであろう方々が通り過ぎていく。おそらく授業参観に来た父兄の方々だろう。

俺も混ざって一緒に行くべきか。でも、『なにこの人。制服姿で授業参観に来てるの?もしかしたら不審者かしら』と変な目で見られないか……。

大家さんに流されてしまったが、学校に着いてからのことを全く考えていなかった。


だが、そんな俺に救いの声を投げかけてくれた人がいた。


「おや、あなたは……」

「へっ?…………あぁ、いつぞやの先生さん!」

「いったい学校の制服など着てどうされたんですか?よくお似合いではありますが……」


以前あずさちゃんに浮気疑惑をかけられた際に、その原因となった居酒屋で出会ったあずさちゃんの担任の先生だ!!

あのときは散々付き合わされてしまったが、やはり良いことをすれば自分にも返ってくるものだ。


「今日は友達の兄代わりとして授業参観に参加させてもらいに来たんですよ。この制服は知り合いの方から貰いまして、びっくりさせてあげようかと……」

「はははっ、そうだったんですか。教室の場所は確認されましたか?よろしければ私がご案内しますが」

「あぁ、いえその生徒というのが、どうも先生のクラスのようでして」

「えっ!!私のクラスですか!?……一体どの子でしょうか?」

「あずさ、というんですけど」

「……あずさ君でしたか。彼女はいつも皆の中心にいて、時折びっくりするようなことも言いますが、とてもいい子です。最近は少し元気がなく心配もしていたんですが、……今日、貴方が彼女を見てくれるなら、また元気を取り戻してくれるかもしれませんね」

「……期待されすぎても応えられないかもしれませんよ?」

「はっはっはっ、勝手に期待するぐらい許してください」

「…………」


彼は純粋な人みたいだ。あずさちゃんの様子にも気づいていたみたいだし。生徒一人一人のことを日ごろから気にかけているんだろう。

……元気になってくれるといいんだけどな。




~~~~~~~~~~~~~




先生さんにあずさちゃんの教室まで連れてきてもらった。彼は一度職員室に教材を取りに行くみたいで、また後でと去って行った。

いつも、この教室であずさちゃんは授業を受けているのか。

いざ入ろうと思うと緊張してきたな。あずさちゃんに恥をかかすわけにもいかないし、ここは大人としてしっかり見せないと。


……よし。


ガラッ


教室の中へ入ると生徒達がすでに着席していて、教室の後ろには父兄の方々が立っていた。

おぅ、すっごい見られた。やっぱり、制服姿がまずかったか。くそ、これだったらいつもの服装の方がよかったんじゃないか……?

仕方なく、肩身狭く後ろに並んで立っていようと思ったとき、一番前の席に座っていたあずさちゃんと目が合った。


「…………………………せんぱい?」


確かに聞こえた気がした。声は聞こえなかったが、彼女の口がそう呟いたのがわかった。

俺も少しばつが悪く小さく手を上げようと思ったら……


「─────っ、先輩!?何で学校にいるんですかっ!?お店はどうしたんですかっっ!?」


あずさちゃんが大声を上げながら、こちらに早足で来た。おかげで、学生のみなさんと父兄のみなさんに思いっきり注目されてしまった。

……どうしよう。あずさちゃんがご乱心だ。

あずさちゃんは目の前まで来ると、俺の服をつかみながら問い詰めてきた。


「……あずさちゃん。先輩、……きちゃった!」

「きちゃった!じゃないですよっ!!何で学校にっ!?今日はお店開けているはずでしょうっ!?」

「えーと、大家さんに今日が授業参観だって聞いてね。それでお店はお休みにしてきたんだ」


理由を話すと、彼女は力を失くしたようにうつむいてしまった。


「…………なんで、なんで来ちゃってるんですか。せっかく私伝えなかったのに……」

「ぁー、やっぱり来て欲しく、なかった……?」

「……ちがいますっ!!……わたしなんかのことより、お店のほうが大事だと思って、わたし、わたしは……」

「……そっか」


大家さんの言っていたことが正解だったか。

……いつもはこっちの事情なんかお構いなしに、かまってかまって、と来るくせに。かまってあげたいときにそっぽ向くんじゃないよ……。


「……実は、今日は結構楽しみにしてたんだよ。あずさちゃんの授業風景が初めて見れるって思ってね。可愛い後輩ちゃんの頑張っている姿を見ようと思ってわざわざ来たんだけどなー」

「……別にわざわざお店を休んでまで来なくても、また次の機会がありました……」

「でも、今のあずさちゃんを見れるのは今だけでしょ」

「……学校のわたしもお店のわたしも別にかわりません……」

「そうかな。全然違うように見えるよ」

「…………ちがいません。いっしょですよ……」


「来て良かったと思っているよ。……来なかったらどうなっていたか怖くもあるよ……」

「────っなにがですか!?わたしはなにもかわりませんっ!!」


彼女は怒ったように声を荒げて俺の顔を見た。

俺はその顔を隠すように彼女の頭を抱いた。


「何て顔してるのさ。…………ごめん、全然ダメだったね俺……」

「…………」

「あずさちゃんが気を遣ってくれるのは嬉しいけど、気の遣いどころを間違えてるよ」

「…………」

「あずさちゃんが元気になれないなら、いくら気を遣われても俺も元気になれないんだ」

「…………」

「俺だけじゃなくて大家さんや先生に、たぶん、あずさちゃんの友達もね」

「…………ぁぅ……うぅ……」

「それに、俺にとっては店の仕事なんかより、あずさちゃんの授業のほうがよっぽど価値があるんだよ」

「……うぅぅ、っぇぐ……」


「だから、今日も頑張ってよ?」

「…………っぅ、…………し、仕方、ないですねっ」


あずさちゃんの頭を離してあげるとその顔を上げ、あずさちゃんらしい笑みを向けてくれた。

まだちょっと震えてるけど、黙っててあげよう……。

あずさちゃんはもう一度こちらの胸に顔を押し付け、拭うように顔を上げる。


「だったら…………しっかり見ていてくださいよっ!!」

「もちろん」


もう大丈夫みたいだ。

ふぅ、何とか元気になってくれたかな。大家さんにも先生さんにもこれで安心してもらえるだろう。


…………ん?


「何かしら、理由はわからないけど嫌だわ。……年になると涙腺が弱くなっちゃって……」

「禁断の愛、かしら。……いいわ!!男女の恋に限界なんてないのだから!!」

「素敵なお兄さんね。妹さんのことを愛しているのが伝わってくるわ!もうビンビンとっ!!」

「昔の私を見ているようだわ。……そうよ、あのときの私も……フフッ、ならきっと貴方も幸せになれるわ」

「……私も、もう一度恋をしてみようかしら……」


「よかったね、あずさちゃん。本当に元気が戻ったみたい……」

「おい、あの男だれだよ!?制服着てるけど見たことないぞっ!!」

「あぁ、あずさ。やっぱり笑顔のあなたは可憐だわ。もう我慢しちゃダメよ……、あなたに涙は似合わないわ……」

「きゃーっ!!あの人あずさちゃんの好い人なのかなっ!?抱きしめて耳元で………っ、きゃーっ!!」

「ちょっとまってよ、その人誰なの!!あずささんの何なの、何なのさーー!!」


教室が無法地帯になっていた。マダム達のじわりと熱く滲むような独自と、学生達のまだ淡い暖かな喧騒で、いつの間にか教室が燃え上がっていた。

……忘れていたな、ここが教室だったってことを。

そして、あずさちゃんはまだくっついている。


「あずさちゃん、一度席に戻った方がいいんじゃない?」

「…………もうちょっとだけ……」

「…………」


……先生が来るまでは別にいいか。もう今更だしな。

それにしても先生、遅いな……。


ガラッ


「遅れてしまい申し訳ありません!!それではただいまから………」


キャーキャーワイワイガヤガヤヒューヒュー。


「…………あの、授業を……」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~




今日一日あずさちゃんは授業で大活躍だった。そして活躍するたびにこちらを振り返り、すると教室が沸き立ち、先生さんが困るというループだった。

先生さんには申し訳ないことをしたな。

だけど、あずさちゃんのためだと思って許してくれ。


「えっ、大家さんが夜ごはんを用意してくれているんですか!?」

「アパートを出る前に聞いてね。帰りにどっかで食ってくんなよって」

「わぁー、楽しみですね!!何を作ってくれるんでしょうか!!」

「たまにはお肉をガッツリ食べたいけどねー」

「いえ、やはりお魚ですねっ!それも高級魚ですっ!!」

「今日はあずさちゃんの日だからね。もしかしたら用意してくれてるかもね」


おそらく大家さんのことだ、あずさちゃんの食べたいものなどお見通しだ。

……大家さんに返さないとな、これ。

制服をつまんで、少し名残惜しさのようなものを感じる……こともないか。


「先輩、私達周りから見たらきっと帰宅中の学生カップルに見えますねっ!!」

「……そうだね、俺が学生に見られているのか、まず疑問だけど」

「何処からどう見ても学生ですよ。教室に入ってきたときもビックリしたんですからねっ!!」

「俺もあずさちゃんがおとなしく席に着いてたからビックリしたよ」

「もーっ!どういうことですか、それ!!」


いつもどおり帰り道をあずさちゃんと帰る。

昨日までとは違う騒々しくにぎやかな帰り道だ。


…………やっぱり俺はこっちのほうがいいな。




「一体どんな授業をしていたのでざますかっ!こちらの教室まで聞こえていたざますよ!!」

「申し訳ありませんでしたぁ!!」


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