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「ちょっと、何あれ!ウルトラマン?」

「待って……あの顔、殺人童貞じゃない!」

 ゴシックロリータ調の服装をした二人組が驚きの声を上げて、遠方のリョウを見つめる。他の生徒たちも一斉にリョウを見ては、その姿に驚きの声を上げている。

「緊急事態だっていうからわざわざ飛んで来たのに……。これじゃあ、あたしたち必要なかったわね」

 ゴシック服の片方が、赤くランプを点滅させた携帯用デバイスと、すでに腐食が始まった有機パラシュートを交互に見て溜息をつく。周囲には駆けつけた生徒たちのパラシュートが散乱していて、常人には耐えがたい異臭を放っている。

 一人の生徒が声を上げ、空を指差した。銀色の何かがこちらへ向けて一直線に落下してくる。

「あら、アレックスね」

 もう一方のゴシック服が、うっとうしそうに陽光を手で遮りながら呟く。そして次の瞬間には、彼女たちの目の前に銀色の円錐が落下してきた。舞い上がる瓦礫と土煙に、生徒たちはたまらず咳き込み、端へと避難する。

 円錐はたちまちに液体化し、中から全裸の巨体が現れた。多くの生徒が悲鳴を上げる。セカンドグレード最狂、アレックスが到着したのだ。アレックスは周囲を見回すと、数キロ先でテロリストを一掃しているリョウに向かって怒鳴り散らした。

「ちっくしょおおおお、チェリぃいいいいいいいいいい!おれだ!おれと戦え!そんなゴミカスどもは適当に絶滅させてしまえ!こっちに来い!来てくれ、チェリいいいいい!」

 涙を流しながら発狂したように暴れまくるアレックスの様子は、生徒たちを怯えさせると同時に勇気づけた。なにせアレックスは、異常者であると同時に誰もが認める実力者である。彼がリョウの勝利を予感しているのなら、それは絶対だ。

「勝てるの……かな」

「……ああ!」

「勝てる!勝てるぞ!」

 にわかに勝利ムードとなり、生徒たちが一斉に声を上げた。ワールドカップ決勝戦並みの声援が、戦地のリョウに送られる。勝利を確信している彼らにとって、応援というよりは凱旋パレードに近い在り様だ。

「やれやれ。まだ戦闘中だってのに、本当気が早い連中ね」

「ククッ……そうね。でも、むしろこの状況で殺人童貞が負けるなんてことが考えられるかしら?」

 ゴシック服を着た二人は笑いながら、リョウの攻撃に逃げ惑うテロリストたちとその様子を悔しそうに見つめるアレックス、そしてリョウの活劇を熱狂して観賞する生徒たちを見た。あたかも、サムのクーデターなど最初から存在しなかったかのように、全員の焦点がリョウに向いている。

「あのテロリストの子が悪いんじゃないのよ」一方の女が気の毒そうに、しかし同時に愉快そうに言う。「でもハッキリ言って、殺人童貞に比べたらインパクトに欠けるのよね」

 リョウは気づいていない。同じ島のほんの目と鼻の先で、リョウを応援する声がわんわんと鳴り響いていることを。しかしその背中からなぜか勇気が湧いてくることだけは、機械虫で巨大化した今も敏感に感じていた。


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