彼は悲鳴を上げてばかりだな
あいつの足音と、私を呼ぶ声が聞こえる。
「ミドリ、ミドリはどこに行った、また何かやらかして……やらかしてたぁああああ」
悲鳴のような声が聞こえた。
彼は悲鳴を上げてばかりだな、と私は他人事のように思いながら振り返ると案の定、そこにはクロード君がいた。
「チュートリアル君、そんなに慌ててどうしたの?」
「誰のせいだ誰の! 突然、歩いている途中の丘の上から景色が見たいと言い出したかと思っていたら崖のふちに向かって、『魔物に襲われている!』と言ってそこから飛び降りて、しかも俺の許可なく魔法使っているし! 偽装工作する身にもなれよ! いえ、なってください、切実に、お願いですから!」
ちょっと涙目になっている彼に、私は少し悪い事をしたような気もするが、でも、
「実際に魔物に襲われている人たちがいたわけだし、助けたんだからいいじゃない」
「だからってこの惨状はどうするんだ! 森の一部分の木が何者かに踏み荒らされたかのように蹂躙されているじゃないか! こんな折れた木々だらけ、目立つじゃないか!」
「不幸な事故だったのよ。ちょっと手加減間違えちゃって」
「……だーかーらー、どうして魔法を使った! 俺が来るまで待って、それからでもいいだろう!」
「緊急事態だったからしょうがないのよ」
「ぐ……だ、だが、少しでもそれたら、魔物の攻撃を受けている人たちだって巻き込まれるだろう!? 森にだって人がいるし」
「あ、それは、属性カスタマイズで“主人公補正”を今は付けているから大丈夫だよ」
「……今度はどんな効果何だ、それ」
「“主人公補正”は“主人公補正”よ。その付随効果で、関係のない人間は一切の魔法攻撃がキャンセルされるっていうのがあったから、問題ないわ」
「……もう訳が分からない」
疲れたように呟くクロード君。
よし、これで私へのお説教が無くなったわ、と思っていると先ほどの女の子が、
「え、えっと、ミドリちゃん、ですか」
「そうだよ~。それで貴方は?」
「私は、フィリル魔法学園一年生の、マリアと申します。先ほどは助けていただきありがとうございます」
「あ、そうなんだ。私もこれからその魔法学園に行くんだ。一年生だから同じだね」
「え? で、でも同じ学年で見かけたことがないのですが」
「うん、今日編入らしいよ、そこにいるチュー……クロード君と一緒に」
「そ、そうなのですか」
困ったような彼女、マリアだがそこで、彼女の傍にいた男の子が、
「マリア、鵜呑みにするな。助けてもらったことは礼を言うが、そんな季節外れの転入生なんて、今まで聞いた事がない。本当のことを言っているのかも分からない」
そう私に言ってくる。
他の三人も警戒したように私を見てみる。
私、良い事しかしていないはずなんだけれどなと思っているとそこで、クロード君がため息をついて、
「だからミドリ、先走るなって言っただろう。そういう正義感の強い所は俺も気に入っているが、このままだと……」
「その時は、チュートリアル君、よろしく」
「だから何で全部俺に丸投げなんだ! というかそのチュートリアル君って呼ぶのは止めろ。意味は分からないが、なんか嫌だ」
「その予感は正しい」
「だから本当にどういう意味なんだ!」
などと話していると、私に喧嘩を売ってきた男の子が、
「もういい、マリア、行くぞ。そしてこの二人の事は学園で報告だ。魔法自習の与えられたノルマは達成しているし」
「う、うん。でも、あの、ありがとうございました」
そこで女の子がもう一度お礼を言って去っていく。
うーむ、正義とは孤独だなと私が思っているとそこでクロードが、
「さあ、俺達も行くぞ。全く、これだからミドリは」
「何よ」
「いっても仕方がないから言わない。行くぞ」
そう私に言ったのだった。