平凡少女は異世界で無双する
つまり、私は平凡である。
その平凡を、他の言葉で現すならば、凡庸、普通、通常、人並み、無難、一般的、平俗、モブ、エキストラである。
少なくとも私は他の人達と比べて特に秀でることも無く、量産化され商品棚に並べられたイチゴ・オレのような、よくあるその他の“女子中学生”だった。
取り立てて個性もなく、普通に友人関係があり、そこから逸脱することも無く、“普通”と称される以外に特に何も持たない。
この世界の“何か”の主人公にはなれないが、主人公の周りにいる“誰か”にはなれる、そんな存在だった。
ただし私はこの“平凡”を愛していた。
変な特殊な才能を持っていると、その分、出る杭は打たれるというか……そういった光景を見てきたので、平凡は最高! あとは物語か何かで楽しめればいいや、危険にかかわりたくないし? と思ってこれまで生きてきた。
この年で私は悟っていたのである。
などという私の思考はここで中断された。
今は目の前の“敵”に集中する必要があったのだ。
そして私は、目の前に集団で立ちふさがる毛むくじゃらの物体に杖を向ける。
魔物の中でも低級だが、集団行動をする、はず。
だがこの程度は私の敵ではない!
そう思いながら私はすぐそばにいる人間達をちらりと盗み見る。
この世界の“普通”の人間では、すぐそばにいる五人の男女のように腰を抜かして動けなくなってしまう物らしい。
いや、違う。
ここにいる五人は、“一般人”では“無い”。
全員が杖や剣を持っているが、実際の戦闘は初めてなのかもしれない。
それとも、あのチュートリアル君の説明が間違っていて、この魔物はそこそこ強いのか?
その辺りは後々、聞き出すことにしよう。
私は杖を掲げながらそこで、選択画面を呼び出す。
水色の画面に浮かび上がる魔法は、以前ゲーム内で見た物と同じ。
今回の敵は炎を少し纏っているから、
「“氷結円陣”」
それに触れると、掲げた杖の先に小さな水色の光の円陣が浮かび上がる。
しかも、その円陣は膨れ上がり、数倍の大きさになる。
威力を増幅するこの杖の影響だ。
初期装備としてチュートリアル君から穏便に手に入れたこの杖は、この世界では伝説級の魔法の杖らしい。
この魔法の杖には様々な種類があるのだけれど、これは魔法を増幅させるだけのタイプのものだ。
それも、頑丈なのでそのまま敵も殴りやすいという素敵な仕様!
そして、目標にその光の円陣を掲げて私は、
「“放て”」
同時に冷気が円陣の中心部から吹き出し、その魔物達どころかその背後にある氷を数百メートルに渡って、氷の柱を出現させる。
少し調子に乗りすぎたようだけれど、
「この程度は誤差の範囲ね。“亀裂”」
私がそう告げると、氷が砕けてそれと同時に魔物たちも倒される。
後には、このタイプの魔物でよく見かける魔力の結晶たる“魔石”を落とす。
青色の澄んだ石の形をしていた。
はじめは綺麗なガラス玉だと思った
これらは集めると“売れる”らしいので私は回収しに行くと、そこで先ほど凍り付いたように動けなくなっていた五人組の一人が、私に声をかけた。
女の子で、大人しそうである。
うむ、昔の私を見ているかのよう、と私が思っていると彼女が、
「助けていただいてありがとうございました。私は、マリアといいます。えっと、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「私? 私の名前は、神楽坂碧。皆からは、ミドリちゃんて呼ばれているわ」
そう私が告げた所で、あいつが走ってくる音が聞こえたのだった。