1-7罪状
やぁみんな!おはよう!カルアだよ~!僕の所は部屋の暗さとジメジメした雰囲気の中に通気孔から覗く陽の光が眩しいんだけどみんなの所はどうかな?
お日様カンカン照りの人達は全速力で十キロマラソンだ!きっとハイな気分になれてハッピーな1日だよ!
雨がザーザー降ってる人達は今日一日断食して泥水だけ啜ると運勢アップだよ!
以上、今日の天気占いでした!
ふぅ。取り乱した。おかげで少し頭が冷えた。色々あった……特にクトゥール!あの野郎!
王宮に来てから何回目かの現状把握を行う。今なら悟りを開きそうだぞ。
俺は服を脱がされ下着一枚で牢屋に鎖で繋がれている。罪状は身分詐称、取引詐欺、そして王国侮辱罪だ。王宮侮辱から王国侮辱へとランクアップしちゃったぜー。
どれも身に覚えがない。いやあると言えばあるので、最初から騙すつもりはなかったというのが正しいか。いやコレだと犯罪者の言い訳っぽいのでなんか違う。
クトゥールから罪状を告げられジンモンが尋問だと脳内変換されるまでそんなに時間はかからなかったと思う。と言うか最初から気付いていればもっと上手く立ち回れただろうに。
何がジンモンマスターだよ……尋問によって人は信じちゃいけないとマスターして罪人へ職業チェンジだよ。
「君で確定!」というか「君(は死罪)で確定!」じゃないか。絵本は重要な所が抜けてるんだな。教育の要素が強いから仕方ないと自分に言い聞かせる。
とりあえずクトゥールとの話以降を振り返るとしようか。
クトゥールが罪状を告げるのを見計らったかのように複数の騎士が入室し俺を取り囲んだ。鎧を脱がされ後ろ手に縛られること僅か数分。かなり手際が良い。こういう所は優秀じゃないか!
まさに連行という言葉どおりに縛られた紐を引っ張られながら連れて行かれる。道中ネズミ一匹も抜け出せないんじゃないかと思うぐらい厳重な警備だ。と言ってもどこが安全でどう逃げれば良いかなんて皆目見当もつかないので大人しくするのが得策だ。
しばらく歩かされ狭く薄暗い一室へ押し込まれる。手は縛られたままなので何をするわけでもなくただ時間だけが過ぎていった。
どれくらいの時間が経っただろうか。人は苦痛な時間程長く感じるものらしい。もしかしたら長いようで短かったのかもしれない。体感時間は半日ぐらいな気もする。
やっと部屋から出されたがまた移動となった。移動する前に猿轡状態にさせられる。正直色々限界だ。小用とかな。
小用を我慢し行きついた先は闘技場を小さくしたような部屋。その部屋の中央にある演台に立たされる。正面は舞台のようになっており、上段中段下段と表彰台のようになっている。
一番高い所に黒いローブに身を包んだ黒子みたいな奴がいた。その一段下の左右には強面のおっさん騎士と全身白いローブを着込んだ神官風な奴が立っていた。以前にも似たような体験をしたような既視感を覚えた。というか謁見と称してあった二人組じゃねぇか!
怒鳴りそうになるのをグッと堪える。感情のまま動くとヤバイ気がする。冷静な行動をとらないととんでもない事になる気がするんだ。
大きな商談だと思えば良いんだ。商品は差し詰め自分の今後と命といったところか。びた一文まけるつもりはない。
「偉大なる裁きの神カルバロレ神の名の下にカルアに命ずる。偉大なる火神へステア神に誓い、嘘偽りなく真の言を発すべし」
黒子が尊厳な態度で宣言する。空気が張り詰める。少し肌寒く感じ始めた。まぁ薄着だし仕方ない。少し下半身が刺激される。深い意味はない。
というか嘘を付きたくても猿轡状態なんだけどな。
「へステア神に誓い真実を申し上げます。先だってこの者から聴き取りを行った内容を基に調査した結果、次々とこの者が行った悪事が確固たるものとなっていきました。まずはこの者の出自に関してですが、サリタの商人達に確認した所、確かにカルアという人物はおりました。ですがこの者は既に亡くなっている事が判明しております」
何処か聞いた事の有る様な声から衝撃的な発言が行われた。周囲から響めきが聞こえる。俺も思わずオウフと奇妙な声を出しちゃうぐらいだ。
少し力んでしまって下半身が少し温かくなった。ある意味で紳士として死んでしまったかもしれない。
それにしてもこの声何処で聞いたんだっけ?
「この事実はカルアの親族から確認をとりました。二週間程前から行商に出かけ、その先で盗賊か魔物か分かりませんが何者かに襲撃されたようです。壊された荷馬車は発見されましたが金品は強奪された後であったとのことです。またこの者が使用している馬車及び手荷物を数点ですが確認した所、馬車は親族所有の物ではなく、手荷物には見知った物も一部ありました。この事からこの者がカルア本人を襲撃もしくは殺害し金品を強奪した上でカルアに成りすました可能性が挙げられます。殺害という残酷極まりない手段で入手した金品を用いているにも関わらず、悩み苦しむ善良な民草の憂き目をあざ笑うかの様に過剰な利潤を得ていた事、また価値のないガラクタ同然の骨董品を膨大な価格で売りつけていることも判明致しました。この種の訴えは今も増えていくばかりです」
予想以上に話がでかくなってきた。思考が追いついていかない。というか下腹部に意識がいって思考は働かない。自然と笑みがこぼれる程危険な状態だ。一方的になす術もなく窮地に陥る。とんだ策士が居たもんだ。
だが骨董品はガラクタじゃな――コポォ!
「また所持品の中にこのペンダントがありました。ペンダントに刻まれている紋章はシュテルンハームの王旗を模して精巧に作られております。これを用いて彼国の使者に扮して潜入した事も判明しております」
そのペンダントには見覚えがある。行商中に物々交換で手に入れたものだった気がするが商会内で入手したものだった気もする。売れ残りを整理していたとき目について、私用品として扱えるように加工して身につけていたものだ。見た目は銀で出来ている卵のように丸い物体。でも触れると温かくて心が落ち着く不思議な物体。見たこともない模様と色あせた風合いが俺の心を鷲掴みにした。
何とも言えない古さ加減が時の移ろいと歴史を醸し出し、妄想の世界に駆り出されていく気分がするんだ。そう――例えば何処かの国の宗教かなんかの象徴で神秘的な逸話や神話があったり。具体的に思いつくのはそうだなぁ~聖霊かなんかの加護を身に付けた勇者の物語とか偉大な叡智を用いた魔術師の物語とか?後は悪の大魔人が――ドプフォ!
「確認を疎かにしたため潜入を未然に防ぐ事が出来ず誠に申し訳ございません。先入観に囚われ使者様のご機嫌を損なわぬよう努めたゆえ、失態を犯してしまいました。如何なる処罰も甘んじて受けいれる所存であります」
例の二人組の神官が芝居掛かった口調と仕草で頭を垂れる。あのペンダントが事の発端なのか?作為的なものを感じるが偶然だろうな。気に入ったこと自体は俺自身の選択で、身につけ始めたことも俺の意思だ。過去に戻れたら二束三文で売ってやる。むしろオマケでも良いぐらいだ。てかシュテルンハームって最近まで戦争していた相手国じゃないか。焦げ臭いどころか煙が立ちそうだぞ。
「私も同罪です。使者の剣士様が御前試合に参加なされると伺っていた為に確認を怠り手配を進めてしまいました。この者の要望で名前など全てを伏せるようにしたのも今思えば策略の一つだったのでしょう。自分の浅はかさに恥じ入るばかりでございます」
今度はおっさん騎士が怒気を抑えるように全身を強張らせて語る。コレも何処か胡散臭い。
つーか神官!そもそもペンダント見せろとか言ってないよな?!
それとおっさん!俺は試合なんか出たくないとキチンと言ったぞ!
お前らが勝手に勘違いしただけだろ……オレムシロヒガイシャジャネ??
「御二方の責罰はこの者の罪を白日の下に晒したあとで考慮することが宜しいかと。
御前試合の件で先ほど第1軍団長が仰った通り、名前など素性が分からないように取計らったのにも意味がありました。決勝戦にてライオノット殿が奇策に倒れられた後ある種の流言が飛び交っております。口に出すのも誠に憚れますが――」
「近衛長を倒したライオノットが剣の素人に倒された。王宮兵は無用のお飾りだ。というヤツですかな」
この声も聞いた事がある。あ、居た。
優男が腕を組んで俺を見ている。その目には何処か寂し気なものが感じられる。
「申し訳ございません。勿論皆様方の剣の腕と王国に対する重要性は語るに足らず。気にする必要はありますまい。ですが一過性の者とはいえ見過ごせない事態です。王宮兵引いては国に対しての侮辱と捉えることも出来ます。そしてこの噂の出処はこの者です。この者は私の前でこう言いました。試合は時の運とも申します。天の気まぐれでしょう、と」
語っているヤツはクトゥールだった。