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0-始まりの時

やはりこの国は腐っている。


 傀儡の愚王も取り巻きの侍従共もどいつもこいつも生きる価値のない鬼畜しかいない。私利私欲の為に民から一方的にあらゆる資源を奪い、物を奪い尽くした後は命すらも利用し喰らっていく。もはや人の皮を被ったケダモノだ。


 そんな為政者の膝下で奪われる事が当然な生活に慣れた民もまた、自分の考えに理解を示さない相手には容赦なく手をかける。奪い奪われ、騙し騙され、利用し利用される。そんな事がこの国のそこら中に蔓延っている。

 人の価値は利用価値だと以前にどっかのクズが俺に言い放った覚えがある。当時は正論吐いて対立したが、今の俺にはその言葉を否定する資格も権利もない。もしかしたら人間の本質なんてそんなものかもしれない。

 この国を追われるようになってから、俺も同様に生きる為に人々の勝手な勘違いを利用させもらった。そういう意味では所詮俺もこの国の人間だという事だ。


 勇者様聖者様と勝手に持ち上げ多額の金銭を積まれた。いずれも行った労働の対価としては比べものにならないほどの高額だ。でもな、相手が納得して心地良く払って貰う分には騙したうちにはならないだろう。俺は勇者でも聖人君子でもありゃしないし最初から肯定はしていない。立派な労働契約だ。皆総じて詐欺だ!騙されたと言うが断じて詐欺ではない。詐欺とは騙すつもりで行うものだと思っている。いや思うようにした。信じてる……

 一方的にではなく、お互いに納得いく形で奪い合う事が出来たならこの国も少しはマシだったのかもしれないな。普通の国なら一方的に税を徴収し、民へ還元するという体の持ちつ持たれつ関係だ。奪い合うという表現は違う気がするがこの国にはコレで充分だ。


 奪われた者の気持ちは本人にしか分からない。そもそも他人なのだから100パーセントの理解なんてあり得ない。

 息子を殺された両親の気持ちが同一で同じものだとは思えない。父と母とでは思い入れも違うだろう。側にいた時間も違うだろう。息子の行く末に期待した度合いも違うだろう。そういう意味で同じではないんだ。愛するもの、親しいものを奪われた俺の気持ちなんて誰も理解出来やしない。

 悲しいよね、寂しいよね、辛いだろうけど乗り越えなきゃダメなんだ、とか何とか言う奴は偽善者か奪われる痛みを知らない一方的に奪う側の人間だ。

 今そういう奴が目の前にいたら問答無用で息の根を止める。そういう奴らがこの国を腐らせたんだ。そういうケダモノがこの国の無垢な人々を、俺の大切なものを奪っていったんだ。

 そしてそういうケダモノの筆頭がこの先の一番奥に見える扉の向こう側にいる筈だ。


 扉までまだまだ兵士が沢山いる。だが俺の後ろにはそれ以上の数の息絶えた兵士が沢山いる。俺が手を下すまでもなく勝手に自滅する愚か者共だ。

 俺を信じてくれて言葉通り身を犠牲にしてくれた人々から預かったこの力は誰にも止められない。この力を使えば使うほど負の連鎖は強く醜くなるのだろうが、腐ったこの国と醜い連中を生かしておくよりはまだマシだ。俺も皆も覚悟はできている。詐欺師と罵られようが、石を投げられようが魔法をぶっ放されようが構うものか。俺は俺自身の為に、俺を信じてくれた人達の為に戦うだけだ。

 もうすぐだ。あと少しで皆の仇がとれる。今もまだ囚われている人々も救える。俺から奪ったものを返してもらう。

 その為になら俺は悪魔にでも何にでもなってみせる。


 見覚えのある一人の騎士が俺の目の前に立ち塞がる。俺は歩みを止め騎士を見つめる。騎士の目には生気がなく、無表情で俺を見つめている。視線は合わないが。俺はまた一つ大切な人を奪われていた事実を確かめた。


「薄々覚悟はしていたんだ。ただ認めたくなかったんだ。お前は無事で、この騒動が片付いたらまた一緒に旅が出来ると心の何処かで願ってたんだ。お前は剣以外では余り役には立たなかったがそれでも一緒に居てくれて心強かった。お前がいなければ今の俺はいなかったと思う。改めて言う。ありがとな」


 返事はない。ただの……


「そうだ。お前が以前言っていた言葉を覚えているか?俺が罪を着せられていた時に言った言葉だ。試合に負けた苦渋を糧に心身共に鍛え次は完膚なきまでに叩きのめす、そう宣言したんだぞ。今がその時だと思うのだが、鍛えた心は既になさそうだな。安心しろ。すぐに仇はとってやるから」


 こいつと初めて出会ったのは御前試合の決勝戦だったな。あの頃の俺は自分に何が起こったか全く分からないず、大きな流れの中でただ身を任せて漂う葉っぱみたいなものだったと今なら思う。そしてあの試合から俺たちの冒険は始まったんだ。


 複雑に絡み合った勘違いと運命というのかもしれない大げさな「何か」の気まぐれが起こした偽りだらけの冒険が。

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