第1章その5
9月1日午後1時、ARゲーム『クローズドミッション』が遂に始まった。参加プレイヤーは300人を超えている。
フィールド外の観戦スペース、そこにはライブ会場と見間違う様な観客が集まっていた。
ゲームに動きがあったのは、それから10分後の事である。何人かのプレイヤーが第1チェックポイントとも言うべきボスに遭遇した辺り。
「既に10人脱落とか――」
「違法ガジェットで失格だと思ったが、そうではないようだ」
「一体、何が起こったのか?」
ステージ中央に置かれた大型スクリーンでは、A会場の広間と思わしき場所が映し出されていた。
そこには倒れた10人のプレイヤーの姿が映し出されている。
しかし、プレイヤー同士の戦闘は禁止されており、これらの行為があった時にはFFとして扱われるはずだ。
「アレがボスキャラなのか?」
「ボスにしてはチートすぎないか? いくら、賞金がかかっているとはいえ――」
モニターに表示されたボスキャラは大型のレールガンと思わしき装備を持っているが、武器はそれだけである。その形状は龍の首だ。
レールガンを振り回して周囲のプレイヤーを弾き飛ばすという技も披露していたが――それはあくまでも防衛手段である。
あのボスを撃破しなければ、先へは進めないという事なのかもしれないが、それにしてはボスの蒼甲が高すぎると考える人物もいた。
しかし、青龍のからくりが判明するのは――もう少し先の話になる。
その時にはネームドプレイヤーが青龍に遭遇し、あの場面を目撃するからだ。
午後1時10分、一部のプレイヤーがボスキャラに撃破された事は参加しているプレイヤーにも報告されるようになっていた。
これに関してはミュートする事も出来るが、大体乃プレイヤーが貴重な情報源としてオンにしている事が多い。
「ここから遠くない様に見えるけど、距離はありそうね」
かなり広い通路を歩いているのは、ビキニ水着にARバイザーメットと言う外見の時雨蒼夜である。
バストが87位はあるのに、巨乳に見えないのは彼女の肉体がボディビルダーを思わせるほどの筋肉を持っているのが原因だろうか。
彼女の外見に関しては観客も疑問を持っており、何故に素顔を隠すのか――という人物も多い。
しかし、素顔を隠して戦う覆面レスラーと言う事例もあり、余計な詮索をするのは逆にARゲームの楽しみを半減させる物と視聴者も分かっている。
「広い通路である以上、こうしたフラッシュモブは沸いて出ると思っていたが――」
時雨の行く手を遮るのは、フラッシュモブである。ARゲームでは基本的にエネミーはCGである事が多く、生身の人間をエネミーにする事は非常に少ない。
おそらく、プレイヤー同士のPKを禁止にした理由は別にありそうだが――それさえも深い詮索をする余裕を与えない。それが、今回のクローズドミッションだろう。
「何が起こっても詮索はするな――そう言う事か」
時雨が右手に握っているガンブレードのブレード部分を床に叩きつける瞬間に――ブレードは鞭のように変形し、周囲を取り囲んでいるモブを瞬時にして気絶させた。
その様子を見た観客は歓声をあげ、更には時雨を応援する者も現れ始めた。
同刻、時雨がフラッシュモブを容赦なく斬り捨てるようなスタイルに対し、疑問を抱く人物がいた。
「クローズドミッションって、敵に発見されず――と言うのがメインと思っていたのに」
スニーキングスーツに防弾ベスト、両手には個人防衛火器という特殊なライフルを装備して――こちらも強行突破である。
しかし、こちらは一部のプレイヤーによる迂闊な行動が招いた状況の後始末――どう考えても他人の迷惑行為を自分が処理しているとしか思えない。
「他のプレイヤーがその気なら――こちらにも考えがある!」
キリシマがライフルの速射でフラッシュモブを撃退していく。ちなみに、ライフルから発射される銃弾はCGであり、命中したとしても相手は気絶するだけだ。
ARゲームは基本的にWeb小説であろうようなデスゲームではない。あくまでも死人が出ないスポーツとしての側面を強調したいのだろう。
最終的には、世界の競技大会へ売り込もうと考えている可能性もあるのだが、今はそこまで考えている暇がない。