買ってみた(二件目)
お待たせして申し訳ない。
リアル多忙につき、次もお待たせするかもしれません。
『タリーズ生活雑貨店』から徒歩5分、鋸と金槌の意匠が施された看板が見えてきました。
工房や製作所といった感じの建物で、製品の陳列や接客をするスペースは皆無。木材・鋼材・石材などの資材が種類ごとに無造作に積み上げられ、その谷間に狭い道が出来上がっていました。
「並んで歩くと危ないから、プルトくんは後ろを付いてきてね。」
「わふ。」
一列になって歩き出したところ、後ろから見ているとアルルさんの白衣の裾がヒラヒラして、どうにも周りの資材を引っ掛けそうです。裾が翻る度にプルトくんはハラハラした気持ちになります。
ヒラヒラ
ハラハラ
ヒラヒラ
ハラハラ
パシッ!
「わふ!」
「ん?あぁ、引っ掛けそうだった?ごめんごめん。持っててくれるの?」
「わふ。」
そんな遣り取りをしながらしばらく進むと、工具や図面や資材が散乱した作業場に到着しました。
「なんじゃい?」
声のした方を見ると、小さな人影が二人に背を向けて丸太に腰掛けていました。その人物は体格こそ小さいものの、服の上からでも分かるほど肩や腕回りは筋肉で隆起しており、その髪は燃え盛る炎のような赤茶色をしていることもあって、まるで活火山のような印象を与える後ろ姿でした。
「おはようお爺ちゃん、ちょっと作って欲しいものがあって来たんだけど、今良いかな?」
「なんじゃ?」
お爺さんは振り返りもせずに聞き返してきました。
「椅子なんだけど・・・」
「椅子か。急ぎか??」
お爺さんは注文を聞きながら、腰の道具袋からパイプを取りだし咥えます。お爺さんの愛想の欠片も無い態度に、アルルさんも若干腰が引けてきました。
「出来れば・・・」
「嬢ちゃんが使うのか?」
「うんん。私じゃなくて一緒に住んでる子が使うの。この子なんだけど・・・」
アルルさんは、後ろに居たプルトくんの脇を持って抱き上げました。
「あぁん?」
漸く振り返ったお爺さん、アルルさんが抱き上げたプルトくんと目が合いました。
「この子はプルトくん。怪我してるところを森で保護したの。」
そこには抱き上げられた仔犬よろしく、腕がピーン脚がダリーンといった状態のプルトくんがいました。
「ふむ。」
お爺さんはしばらくプルトくんを見つめると、徐に立ち上がり近づいてきました。その歩く様は、まるで小岩が動いているかのような重量感があり、流石のプルトくんも若干ビビリました。そしてお爺さんのゴツゴツした手が頭に近づいてくると、耳はペタンと伏せて尻尾は脚の間にクリンと巻かれます。
ポフッ・・・グリグリグリ・・・
「そんなに怖がらんでも、捕って喰いやせんわい。」
お爺さんの顔はニコリともしていないのに何故か暖かく、その手もゴツゴツして撫で方は粗いですが大きくて優しい感じがしました。いつの間にかプルトくんの尻尾が振られ始め、反動で脚も右にプラーン左にブラーンとなります。
「さて椅子じゃったな?具体的な注文はあるか?」
「家で使ってる椅子だと、この子にはちょっと低いみたいなの。食卓の高さに合わせて、座面の高いものが欲しいんだけど。」
「わかった。じゃあ、まずは坊主の計測じゃな。」
革製の前掛けから巻き尺を取りだし、抱えられたプルトくんを測り始めるお爺さん。
「後は座高じゃな・・・坊主、ちょっと来い。」
プルトくんをアルルさんから受け取ると、適当な丸太に座らせて座高を測ります。
「よし、もうええぞ。」
プルトくんを丸太から下ろし、道具袋から出した手帳に結果を書き込みながら、アルルさんに向き直りました。
「夕方までには仕上げておく。取りに来い。」
「良いの?他のお仕事あるんじゃないの?」
「あるにはあるが、今日は興が乗らん。じゃから、椅子でも作って暇潰しじゃ。」
そう言ってお爺さんは奥の作業場へと引っ込んでしまいました。『アンタのためじゃないんだからね!』ですね、分かります。
「ふふ、お爺ちゃんはツンデレさんだね?」
「わふぅ?」
「素直じゃないけど良い人ってこと。」
「わっふ!」
「さぁ、そろそろルノアちゃんのお店に行こっか?」
そうして二人も資材の谷間へと戻って行きました。
修正しました。
× パメラのお店
○ ルノアちゃんのお店