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立ってみた

その世界の名はセラニカ、あなた達の世界よりちょっぴり科学や文明が未発達な世界。最先端の科学技術と言えば、歯車や板バネと言ったものの鋳造技術。

遅れてる?いえいえ、そんなことはございません。夜も輝き続ける街並み、陸海空を行き交う乗り物、平民の家庭でさえ上下水道・冷蔵庫・風呂・冷暖房はあって当たり前。


嘘?嘘ではございません。何故ならここは魔法の世界なんですから。


在り来たりの剣と魔法の世界かって?剣なんて凶器は、今じゃ博物館か骨董品店にしかありませんよ。剣術も趣味人くらいしか習いません。

流行りの武器と言えば、銃ですよ銃。 でっかい刃物振り回して天下取りなんて過去の話、今は指先一つでDOWNの時代ですよ。


取り敢えず、この世界のことは追々ご紹介するとして、この物語の主人公がそろそろ生まれそうなので、そちらを覗いてみましょう。


そこはセラニカの東の果て、ヤハティアという国。その国でも最も東にある、辺境の村ヘイメス。自然豊かと言えば聞こえは良いが、村の周りは森や険しい山しか無く、隣村は歩いて10日の超田舎。そんな村の片隅にある村で一軒しかない医者の家、病院と言うには憚られる粗末な家の地下室で、彼は産声を揚げようとしていました。


「そろそろ頃合いかなぁ・・・どんな子が出てくるのかな?人生初の使い魔なんだし、一緒に居て面白い子だと良いな。」


人の背丈程もある円柱状の透明な容器、そこに繋がる細い管や実験器具らしきものを引き抜きながら、その人物は独り言を呟いています。声からすると女性なのでしょう、疲労の色が濃いですが美しいソプラノが薄暗い部屋に響きます。


「後は始竜種(プリメア)の特性因子を結合して・・・よし、成功♪」


仄かに発光し始める容器、次第に光量を増し彼女の姿を照らし出します。

着ている服は皺だらけの白いシャツに、同じく皺だらけのスラックス。その上に薬品で出来たであろう染みだらけの草臥れた白衣を羽織り、木と革で出来たサンダルを履いています。

顔立ちは細く、鼻筋や唇から察するに美女と言えるのでしょうが、目元は牛乳瓶の底のように濁った眼鏡に隠され、腰に届くほどの銀髪は、ボサボサで寝癖だらけの非常にスタイリッシュな有様になっています。


そんな残念な彼女は置いておいて、発光していた容器に罅が入り始めました。


ピシッ!パキパキパキ・・・ガシャン!ザバー


とうとう容器は耐え切れなくなり決壊、中に入っていた液体が部屋中に広がります。しばらくすると液体は床材の隙間に染み込む様にして消え、彼女の足元に一抱えは在りそうな毛玉が残りました。


「きゅ~ん」


毛玉が解れ、中から覗いた細長い顔が一声鳴きました。眼は既に開いており、目の前の人物を凝視しています。その間も、頭に付いた二等辺三角形の耳は、ピコピコ忙しなく動いて周囲を探っているようです。


「おはよう、まずは身体を拭こうね。濡れたままだと風邪ひいちゃうから。」


彼女は濡れるのも構わず毛玉を抱き上げると、書類が山脈を築いている机に向かい、引き出しから清潔な布を取り出して拭き始めます。濡れてペッタリしていた毛並みが、次第にモフモフ感に溢れてきます。しばらくすると、そこには可愛らしい一匹の仔犬の姿が在りました。真っ白の毛並みに、ポッコリ出たお腹。四肢は短く太く、尻尾は長目でフサフサ。愛犬家に見せれば、致死率90%以上でキュン死させるであろうミラクルボディをしていました。


「よーし、乾いた!では身体測定に移ります。性別は・・・男の子だね。体長は・・・約60セテル。重さは・・・約3800カランくらいかな。」


彼女は机から定規を出したり、仔犬を抱えて量りに乗ったりして、簡単な身体測定をしていきます。


「思ってたよりも少し小さかったかな。まぁ、小さいほうが可愛くていいけどねぇ。はい、次は体力測定です。立てるかな?」


彼女が抱えていた仔犬を床に下ろすと、言われた通り立とうと四肢をプルプル踏ん張ります。


「う~ん、やっぱり野性動物みたいにすぐ立つのは無理かぁ。筋肉は十分付いてるはずだから、やっぱり神経伝達が未発達なのかなぁ・・・もう良いよ、無理させてゴメンね。」


そう言って止められても、健気なのか負けん気が強いのか、尚も仔犬は踏ん張ります。


プルプルプルプル・・・コテン!プルプルプルプル・・・ペタン!


何度も立とうとしては、その度に転けたり尻餅をついたりします。


「ほら、無理しないで。ゆっくり練習すれば良いから。」


そう言って彼女が抱き上げようとした瞬間。


プルプルプル・・・スクッ!


「へ?」


なんと立ち上がりました。しかも二本足で仁王立ちです。これには彼女もびっくり、てっきり四足で立とうとしてると思っていたから当たり前です。


「わふっ!」


「う・・・うん、よくできました?」


フンスッとばかりに鼻息荒く誇らしそうにするので、勢いに呑まれて彼女も何となく誉めてしまいます。ですが頭が重いのか、フラフラと前後に揺れ始めました。


ペタン・・・コロン・・・ガッ!!


「あ。」


尻餅をついて・・・勢いで転がり・・・後頭部を強打。仔犬は目を回してのびてしまい、彼女は若干慌てつつも慎重に診察します。


「頚椎に異常は・・・無いみたいだね。瞳孔は・・・基準が今一分かんないけど、問題は無いかな。」


再び仔犬を抱き上げると、その頭を優しく撫で始めます。その手が先ほど床に打ち付けたであろう後頭部に触れ、出血や裂傷がないか探ります。


「たんこぶぐらいは作っているかと思ったけど、思ってたより頑丈なんだね。これも始竜種(プリメア)の血の影響なのかな・・・何はともあれ、面白そうな子で良かった。」


この日、古代に失われた技術『使い魔創造』が再現され、約1万年ぶりに使い魔が誕生しました。何故失われたかって?この世界の住人なら誰でも知っている御伽噺にこうあります。


『古の魔王が生み出しし僅か千の使い魔により、世界は火の海に沈められ、あらゆる文明が破壊されつくし、人類は絶滅しかけた。神に選ばれし聖女が千の獣を率いて此れを討ち、その技術を禁術として永久(とわ)に封印した。』

  

この技術を再現したのは、稀代の変人医師アルル=シャハギア。ただ再現したなら兎も角、なんと彼女は始竜種の血を使い魔の創造に使用しました。古の魔王ですら御し得ずに殺されかけたとされる使い魔、そんな狂獣を再び生み出してしまったのです。更に驚くべきは、そんな彼女は聖女の末裔でした。


世界の行く末を握るかもしれない一人と一匹のお気楽ライフ、ここに開幕です。

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