世界のすべてとキミに
企画小説「イヴに世界とキミと」で書かせていただいた「ふたつの願い」の後日談です。いわばオマケのようなものなので、「あれはあそこで終わったほうがよい」と思われる方はスルーでお願いします。
本編の4年半後のお話、主人公は楓です。
タイトルは企画名に敬意を表して、のつもりですが、そうじたかひろさん、もし失礼でしたらすみません。
2016年、初夏。
ゴールデンウイークも終わった5月半ばの土曜日。あたしと賢吾はあの公園に来ていた。
いいお天気であったかくて気持ちいい。ふたりでベンチに腰掛けている今がとっても幸せ。
「こうしてるとさ、4年半前に地球滅亡の危機があったなんてウソみたいだな」
「ほんとだよね。しかもその危機を救ったのがあたしたちがなんてね」
賢吾の言葉に頷く。あれから4年半、あたしたちは大学生になった。
賢吾とは高校も大学もずっと一緒。このまま一生一緒にいられるといいなあってあたしは思っているんだけど、賢吾のほうはどうなのかな?
そう思って賢吾のほうを見たら、あまりに気持よかったのか、居眠りを始めていた。
デート中になにやってるの?!って思わなくもないけど。まあいいか、あたしといると安心なのね、って思っておこう。
あたしは正面を向いた。あの時、キモピクシーがいたのがあのあたりかな、そう思いながらツツジの植え込みを眺めていたら、ツツジと同じピンク色のボールが飛んできた。
隣の芝生広場からかな、立ち上がって拾い上げてみる。
まだ真新しいそのボールには、小さい女の子に大人気のアニメキャラクターがプリントされていて「みずき ゆか」って名前も書いてある。
大事なものなんだろうな、ここに飛んできたってわかっているのかな。しばらくここで待ってみて、もし取りに来なかったら公園の管理事務所でアナウンスしてもらおう。
そう思ってボールを持ったまま、あたしは賢吾ところに戻った。
「暖かくて気持ちいいから、つい居眠りしてた。あれ、楓、そのボール何?」
賢吾がまだ眠そうな顔であたしに話しかけてきた。
「芝生広場のほうから飛んできたの、たぶん幼稚園くらいの女の子だと思うんだけど」
「ふーん。そういえばその植え込みの奥くらいだったかな、あいつに会ったの」
「ああ、キモピクシー?うん、そうだね、今ごろどこで何してるのかな。ここでまた誰かを待ち伏せしてたりしてね」
「縁起でもないこと言うなよ、オレは二度とあいつには会いたくない」
自分から話題を振ったくせに、賢吾はすごく不愉快そうな顔をしてそう言った。相性悪かったもんなー。賢吾とキモピクシー。まああたしももうあまり会いたくないけど。
その時、目の前の茂みがガサガサと動いた。え、これってまさか?
イヤな予感がしたけど、ツツジの間から顔を出したのは3つくらいの小さな女の子だった。
色白でぱっちりとした目が印象的な子で、キモピクシーの100倍くらい可愛い顔してる。
女の子は茂みから出ると辺りを見回している、捜し物かな。
「もしかして、みずきゆかちゃん?」
声をかけると女の子はびっくりしたような顔でこちらを見た。
「おねえちゃん、どうしてあたしのなまえ知ってるの?」
「これ、あなたのでしょ、さっき向こうから飛んできたの」
ピンクのボールを差し出すとゆかちゃんは顔を輝かせた。
「よかったー、これね、パパが買ってくれたあたしのタカラモノなの。おねえちゃん、どうもありがとう」
ゆかちゃんはぺこりとお辞儀をして、あたしの手からボールを受け取った。うん、しつけも行き届いていてなかなかよろしい、ほんとあいつの1000倍は可愛い。
あたしがそう思ったとき、
「ゆかー!」
二十代半ばくらいの若い男の人がゆかちゃんの名前を呼びながら駆けてきた。
「あ、パパだ!」
ひえ、あれがパパ?!わっか!!
ずいぶん若いときに結婚したのかな。
「結花、勝手にほかのところに行ったらダメだって言ったろ」
「ごめんなさい。ボールがこっちに飛んでったからつい。あ、ボールね、このおねえちゃんが拾ってくれたの」
「そうか。どうもありがとうございます」
「いえ、どういたしまして」
「結花もちゃんとお姉さんにお礼言ったか?」
「うん!」
ゆかちゃんは得意げに頷いた。ほんと可愛いなあ、あたしもこんな子欲しいな。いやもちろん将来の話だけど。
なんてあたしが密かに考えていると、ゆかちゃんのパパの胸元で携帯が鳴った。
「あ、ママからのメールだ、パパ読んで」
「わかった、えーと。もうすぐお昼ごはんだからそろそろ帰ってきてね、今日は謙悟さんと結花の好きなオムライスです、だって」
「うわ、ゆかオムライス大好き!早く帰ろう!じゃあ、おねえちゃんどうもありがとう、バイバイ!」
そう言うとゆかちゃんはパパと手をつないで仲良く帰っていった。
「あの人、けんごっていうんだな」
いつの間にか賢吾が後ろに立っていた。
「うん、あたしもびっくりした。すごい偶然だね」
「あの子、可愛かったな」
「うんうん、パパさんも感じいい人だったね」
「オレと同じ名前だからな」
「えー、結局それが言いたかったわけ?」
「はは、まあな、しかしオレ子供あんまり好きじゃないと思ってたけど、実際接してみるとほんと可愛いな。それに」
「それに、何?」
「いや、あの人見てたら若いパパってのもいいなあ、とかさ。あ、いやなんでもない。オレらもメシ食いにいくか?」
「うん!」
そうだね、あたしたちも近い将来、あんなふうになれたらいいな、とは照れくさくてとても言えなかったけれど。
言葉の代わりにそっと右手を差し出したら、賢吾はその手を強く握りかえしてくれた。
おひさまが暖かくて、風が気持ちよくて、そしてつないだ手と手が心強くて。
そんなことすべてが限りなく貴重で愛おしい。
今日も世界はここにある。
そのことに心からの感謝を。
世界のすべてとキミに、ありがとう・・・。
END
読んでくださった方、どうもありがとうございます。
蛇足といえばまさにそうなのかもしれないので、書くかどうか迷いました。
でもやっぱり書きたいから書きました。自分の書くものに悔いは残したくないので。