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極東4th  作者: 霧島まるは
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脳筋

---

 早紀は、帰りの車中、非常に気まずい気分を味わわされた。


 昼休みに、あんなやりとりを真理としてしまったのだ。


 噛み合うはずのない、『好意』という感情。


 要求され、つっぱねた。


 真理は黙ったままだが、早紀を無視したいつものだんまりとはワケが違う。


 そして、この空間には。


「……」


 タミもいた。


 同居がはじまってから、彼女も一緒に通学するようになっていたのだ。


 彼女は、ちょうど中央の席。


 両側の微妙な異変に、無言で視線だけを投げてよこすのである。


 制服姿だが、手袋はいつも通りだ。


 その手袋の手が、軽く早紀の腕に触れている。


 彼女の存在を、忘れないようにするための、タミなりの方法らしい。


 特に拒む理由もないので、戸惑いながらもそれを受け入れていた。


「そういえば…」


 その彼女が、微妙な空気を軽くつつくように声を発する。


 どちらに向けて言おうとしているのか、分からないが、早紀は自分にではないだろうと思っていた。


「イデルグ卿の子息に、いろいろ聞かれましたわ…」


 瞬間。


 車内の空気が、冷凍された。


 真理の、視線によって。


 なんで、タミがイデルグの話を。


 そう思いかけて、すぐに分かった。


 タミは、1年なのだ。


 そして──ハイクラス。


 あの双子と、クラスメートなのである。


 彼女が、カシュメル家にいるという情報を、どこからか仕入れたに違いない。


 タミの視線が、早紀の方に向く。


 真理ではなく。


「あなたの好きなものを、調べて欲しいと頼まれたのだけど…」


 冷えゆく空気の中、彼女は淡々と早紀に向けて言葉を続ける。


 いや、あの。


 タミの向こう側のブリザードに気圧されて、早紀の唇は、あわあわと空回る。


「そんな義理はないから、『脳筋に付き合う暇はなくてよ』、と答えておいたわ」


 よかったかしら?


 早紀は、斜め上方を見ながら、タミの言葉に軽く汗をかいた。


 ああ──どっちか分かった。



 ※



 帰りついたら。


「ああ…」


 タミが、軽く理解した声を出した。


 真理は、一瞬だけ足を止めた後、全てを無視してさっさと屋敷に入ってしまった。


 早紀は。


 あ、あは、あは。


 途方に暮れる笑いを心の中で浮かべながら、『それ』を見ていた。


 屋敷の入り口にあったのは──大量の花、花、花。


 むせかえるほどの香りが、たちのぼっている。


 よほど、香りの強い花のようだ。


 赤と黒が混じった薔薇のような花を、タミが一本抜き取る。


「あなたを、匂いで見つけるつもりかしら、あの脳筋は…」


 タミは、この犯人を甲斐と睨んだようだ。


 抜き取られた花が差し出され、早紀は反射的に受け取ってしまった。


 うーん。


 居心地が悪い。


 真理は、全力で無視したようだが、これまでの様子からすると、非常に不機嫌になっているのは分かる。


 更に、早紀としては非常に虚しい。


 突然、周囲に好意を要求する男が増えてきたが、皆、別に彼女を好きなわけではないのだ。


 それを勘違いして、舞いあがれるほど、お気楽な性格はしていなかった。


 この花は、とても暗い華やかさがある。


 彼女に似合うと思って送られたとは、到底思えなかった。


 自分を産んだ母親ならば、間違いなく似合うのだろうが。


 ため息をひとつついて、早紀は花をよけて屋敷へと入る。


 二階へと上がり、自室に戻ろうとした時。


 真理がまだ制服のまま、奥の部屋から出てきた。


 つい、そっちを見てしまう。


 真理も、遠いながらに早紀を見た。


 随分、距離があるのに。


 自分の手が──ひやりとした。


 その手に握っているのは、タミにもらった1本の花。


 あっと、慌てて花を身体の陰に隠す。


 真理は、黙ったままこっちを見ている。


 いたたまれなくなった早紀は。


 逃げるように、自室に飛びこんだのだった。



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