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極東4th  作者: 霧島まるは
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バカで出来損ないの魔女

---


 十数年。


 十数年、魔族の家に住み、魔族専門の学校に通い続けておきながら。


 この女は、自分や周囲が何者か知らなかったというのだ。


 真理は、その事実に強い頭痛を覚えた。


 常識として親から聞いているだろうとか、成長の過程で気づいているだろうとか。


 自分にしてみれば、あまりに常識的なことのため、いちいち確認を取ることなど考え付きもしなかった。


 大体。


 早紀という女は、とにかく影が薄い。


 いるのかいないのか、すぐに分からなくなる。


 何度、真理はその存在を忘れ続けたことか。


 同じ車で、毎朝同じ学校に行っているにも関わらず、三ヶ月以上存在認識しなかったことさえある。


 その、とんでもなく影の薄い女は、イケニエとしてこの家に連れてこられた。


 将来、真理が受け継ぐ物のために、必要なイケニエだったのだ。


 そのイケニエの条件は。


 魔女、であること。


 魔族の女を、総称してそう呼ぶ。


 遠い遠い親戚の子──だが、真理とわずかでも血がつながっているのなら、早紀は間違いなく魔女だ。


 なまじ、傍系の傍系な上、親もいないという事実は、誰も早紀の命には頓着しない、ということである。


 こんな、うってつけの存在はなかった。


 だが。


 魔女の能力は、その「物」に影響を与える。


 初めて、真理が早紀を見た時。


 ぽかーんと口を開けながら、屋敷を見上げているバカっぽい顔を見た時。


 真理は、このイケニエを全身で拒否したのだ。


 幼少の頃から、自分が何者で、何をすべきかを知っていたからこそ、真理には誰よりも高いプライドがあった。


 こんな、駄目魔女の力を借りなければならないくらいなら。


 だから。


 だから、真理は小さな早紀を追い出そうとしたのだ。


 だが。


 魔女とは名ばかりの小娘は、気づくと屋敷にい続けたのだ。


 図太さと、影の薄さを併せ持ったまま。


 そして、ついに──真理の17歳の誕生日が来てしまった。



 ※



 誕生日の前日。


 朝。


 修平に廊下で声をかけられた時、本当に偶然に早紀を目にした。


 珍しく、その存在が目に留まったのだ。


 そして。


 賭けに出た。


 この女を、イケニエにしない最後の手段、だった。


 正確に言うと、魔女なしで「あれ」を手に入れる方法も、真理は知っていたのだ。


 ただし。


 その場合、魔女の能力は付加されず、能力そのものが低下する可能性があった。


 しかし、真理には自分の存在についてのプライドがある。


 自分の血と能力で、それを制御できると思っていたのだ。


 なのに。


 バカで出来損ないの魔女は、屋敷にいた。


 よりにもよって、修平に助けを求めていたのだ。


 彼は、早紀の味方でもなんでもないというのに。


 結局。


 真理は、それを運命だと理解した。


 この出来損ないの命を救うべく、彼にしては手を尽くした。


 それを、無駄にしたのもまた、この出来損ないだったのだ。


 せめて。


 最後の情報として、生まれ変わる可能性だけを教えてやった。


 彼の助言に従い、早紀が微かな望みをつなげることが出来れば──それもまた運命だと思ったのだ。


 出来損ないだと思った女は、その微かな望みをつないで、生まれ変わった。


 二度、死んだのだ。


 肉体を真理に殺され、魂を「あれ」に殺された。


 殺す側の二人に、早紀を受け入れる意思があった時だけに成立する契約。


 それが。


 いまの、早紀だ。


 彼女は、魔族と「あれ」のハーフになった。


 制御するのは、真理。


 その証を、早紀の額に記した。


 起きている間は真理の、寝ている間は「あれ」の──下僕になるという証。



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