昼休みの終わり
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「怖いより…好きになれ」
真理にそう言われた時、本当に驚いたのだ。
あの彼が、早紀の気持ちを引きたがっていることに。
しかし。
その言葉に、喜ぶことなんか出来なかった。
なぜ、このタイミングで彼がそんなことを言い出したのか、分かってしまったのである。
イデルグの双子だ。
彼らが、早紀を取り込みたがったから。
それを防ぐために、あるいはそれに張り合ってか、早紀の心を自分にとどめようとしたのだろう。
もし彼らが現れなければ、真理は今まで通り、彼女に上から言い放つだけの言葉を投げていたのだ。
だが、これも結局、上から言い放っている。
「好きになれ」と。
その方が、真理にとって都合がいい、という言葉が、姿を隠さないまま含まれているのだ。
好き、という意味を──はきちがえている。
彼が望むのは、一方的な好意。
鎧という関係でつながっても、心は一方的にしかつながない気だ。
真理がそうあればあるほど、早紀は自分が『独り』であることを思い知らされるというのに。
「私のこと…好きじゃないくせに」
それが、悲しかった。
真理が、自分のことなど好きじゃないのは、子供の頃から知っている。
憑き魔女になっても、その感情が続行しているのくらい分かっている。
イデルグに、自分の『物』を取られるのがいやなだけで、『早紀』を取られるのがいやなわけではないのだ。
それなのに、一方的な好意を求められる。
真理自身のために。
そんな簡単に、心なんて差し出せるはずがなかった。
包む気も、温める気も──愛する気もないくせに。
真理は。
早紀の一言に、動きを止めていた。
目は、彼女を見ているが、いまの言葉を理解したのか、どう思ったのかは表には出ていない。
その唇が。
微かに、動く素振りを見せた時。
昼休みの終わるベルが──鳴った。