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極東4th  作者: 霧島まるは
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怖いより

---

「お前は…俺が嫌いか?」


 いたって、真面目な質問だった。


 真理は、自分に対するいい感情を、早紀から引き出さなければならないと悟ったからだ。


 嫌いの反対は、好意的な感情だ。


 その中には、単純な好きから、憧れや尊敬というものも含まれる。


 もし、早紀がそのような感情を自分に持っていると自覚すれば、おのずと行動も変わってくる。


 その感情が、他より強ければ、真理を裏切ることもなくなる。


 母とやらも、海族とやらも、ほかの魔族の邪魔者も、入ることが出来なくなるのだ。


 これまで、早紀が自分に対してどう思っていようが、どうでもよかった。


 憑き魔女としての仕事さえきっちり果たせば、あとは本当に何でもよかったのだ。


 だから。


 そのように扱ってきた。


 しかし、彼女はただの『物』ではなかった。


 まったく思い通りにはならない。


 そして、このまま思い通りにならなければ、真理にとって残念な事態になる可能性があるのだ。


 それを阻むためには。


 真理を好きにさせるのが、一番早いことに思えたのだ。


 早紀は。


 長いこと硬直していた。


 真理の質問は、思いのほか彼女に衝撃を与えたようだ。


「え…っと…あ…」


 その顔のまま、意味不明な声をこぼす。


「あっと…えと…」


 驚きの目は、真理を見たまま。


「好きとか…嫌いか…とかじゃなくて…」


 ようやくその唇が、意味のある言葉を紡ぎ始める。


「ええと……怖い」


 そして──魔族としては、喜ばしいホメ言葉をもらう羽目となったのだ。


 いま、真理が望む言葉の中では、真反対に近いものだったが。



 ※



 畏怖があるのは、想定していなかったわけではない。


 真理は、憮然としつつもその事実を受け入れた。


 しかし、当主としてカシュメルの血族の者に、尊敬されて然るべきだと、心のどこかで思っていたのだ。


 だが。


 相手は、あの早紀だったのだ。


 憑き魔女になるまで、彼女は自分が魔女である事実を知らなかった。


 だから、カシュメル家のことなど、これっぽっちも理解していなかったのだろう。


 畏敬にせよ尊敬にせよ、生まれるはずがないのである。


 そんな、鈍い娘に。


 当主自ら魔力を分け、タミの手配をし、育ての母の人間のことを調べ、近くまで連れて行き、海族に拉致されているところを助けに行ったのだ。


 しかし、そのいずれも(魔力を分けたことはともかく)、早紀をありがたがらせることなどなかった。

 

 この女は。


 真理は、彼を『怖い』と一言で片づけた女を見た。


 重苦しい髪をタミに切られたらしく、昨日のような化粧がなくとも、随分様変わりした気がする。


 目もとは、まだおぼつかないが、それでも真理の反応を伺っていた。


 怖い、ということに対して、彼がどう出るのか。


「怖いより…」


 釈然としない結果を、真理は塗り替える必要を感じた。


 感情は、変わる。


 人によっては、それこそめまぐるしく。


「怖いより…好きになれ」


 早紀が、魔女である自分を受け入れ始めたように、いま彼女の持つ『怖い』を変えることは出来るのだ。


 それが、彼女を取り巻く不穏な環境から、彼女自身を守る力になる。


 そんな真理の言葉に。


 早紀は、一瞬固まって。


 しかし。


 直後。


 深く沈んだ表情になった。


 理解できない、感情の動きだ。


 何故、そこで沈むのか。


 唇が。


 早紀の唇が、小さく動く。


「私のこと…好きじゃないくせに」


 ぼそり。



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