美濃
同じ学校…だったんだ。
早紀は、半分唖然としながら、その事実を噛み砕いていた。
イデルグの、息子のことである。
昼休み。
教室で、何もすることがない早紀の元に、訪問者がきたのだ。
美濃だった。
横に、何故かトゥーイがいる。
その後方には、零子が控えていた。
ある意味、学内で早紀を探すための、最高の人間たちを引き連れてきたわけだ。
「トゥーイ卿…これで貸しは無しです…助かりました」
「そうしてほしいものだな。僕はどっちが跡目を継ごうが、問題ないんだから」
美濃の言葉に、彼よりも高い位置にいるトゥーイは、面白くなさげに肩をそびやかす。
早紀は困惑しながら、二人の男を見比べる。
この二人が一緒にいる理由が、分からなかったからだ。
共通点があるとすれば、鎧を受け継ぐ血筋というくらいか。
しかし、トゥーイはちらりと早紀を睨むように見ると、さっさと零子を引き連れて帰ってしまった。
「少し話がしたくてな…それくらいは許されるだろう?」
彼は、空いている早紀の前の席に座り、半身を乗り出すように振り返る。
身体が大きいせいで、座ってなお威圧感がある。
昼休みに来たのは、考えた上か。
放課後なら、早紀は真理に合わせて帰らなければならない。
昼休みとは、半端な長さの、しかし逃げられない時間帯だ。
そして、断りにくい話の仕方だ。
甲斐のように、いきなり腕をひっつかんで結論を強要したりはしない。
早紀が、目で軽くトゥーイの消えた方を見ると、美濃も同じように一度視線を動かした。
「ああ…トゥーイ卿は、俺の従兄弟だ。違う血筋の従兄弟はいいな…殺す優先順位が低いから頼みごとが出来る」
さらりと、隠されてもいないだろう真実を述べながら──しかし、そら恐ろしい言葉も付随している。
「父はな…」
現状に、早紀が追い付けないでいるのをよそに、美濃はさっさと話を始めて。
この辺りの強引さは、父親や甲斐と変わらない。
「父はな…憑き魔女を作れなかったことを、一番後悔していた」
そして──イデルグの話を、した。
※
憑き魔女という言葉に、早紀が惹かれないはずがない。
二回死ぬという、よく分からない確率の元に生み出される、鎧の化身のような生き物。
それが、自分であり、零子でもある。
イデルグは、父とその憑き魔女の子だ、という話までは聞いた。
そんな男だからこそ、自分が鎧を受け継ぐ時に、憑き魔女を作りたかったのか。
「魔女というのは、不安定すぎて、思い通りに契約が運ばなかった…」
美濃の目が、早紀を映す。
「トゥーイ卿が、憑き魔女を作ったのは、うちの父に影響を受けていたせいで、意図的なものだ…成功したのは幸運だったがな」
早紀を見ながらも、零子の話題が出る。
声には、微かながら羨望を感じた。
はっと。
早紀は、零子のことを認識した。
同じ憑き魔女、という意識はちゃんとあったのだ。
「…零子さんも憑き魔女なら…彼女を口説けばいいんじゃないですか?」
イデルグが、憑き魔女という肩書のみにこだわっているなら、早紀じゃなくてもいいはずだ。
「それが、トゥーイ卿の憑き魔女は…彼の実験材料でな」
美濃は、やはりさらりと──奇妙な言葉を吐いた。
「うちの父親の能力が、たった一回のまぐれなのか、それとも憑き魔女特有の遺伝もあるのか…そのために、憑き魔女を自力で用意したわけだ」
後継ぎにするかは、分からんがな。
美濃は、あっさりと言葉を続けた。
詳しく考えたくない。
早紀は、耳を覆いたくなった。
零子を思い出す。
ハイクラスの魔女たちを見ながら、あの中の誰かがトゥーイの正妻になるのだと、悟った目と言葉をしていた。
きっと自分の運命を、彼女は知っているのだ。
何故そんなひどい運命と、折り合いをつけているのか。
大体。
実験というのならば、イデルグ家だってさして変わらない。
相手が、零子か早紀かの違いだけだ。
警戒のまなざしで、美濃を見る。
しかし。
「お前も…トゥーイ卿には突っかかられただろう? 血筋から、遺伝能力から、丸裸にされないよう気をつけるんだな」
話の流れは──実験材料という要点は、軽く流してしまったのだった。




