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極東4th  作者: 霧島まるは
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知らなかったこと

 はっと。


 我に返った時──早紀は、立ち尽くして前を見ていた。


 暗いはずなのに、世界ははっきりと見えている。


 たくさんの、骨董品が置かれている部屋の中。


 真理が立っていた。


 そして、早紀を見ていた。


 真理の後ろには、修平もいる。


 あ、れ?


 見覚えのある構図に、早紀は混乱していた。


 そして。


 何より彼女を混乱させたのは。


 真理の足元には。


 少女が倒れていた。


 真っ黒な髪と、真っ赤な血の海。


 その血が、まるで生きているかのように、いま立っている早紀の方へと吸い上げられていく。


 干からびていく少女。


 それが、一体誰なのか──早紀は知っていた。


「……!」


 何か言おうとして、口がきけないことに気づく。


 動こうとして、自分の身体がまるで金属のようにこわばっていることにも気づく。


 しかし、動くことは出来た。


 ズシン。


 一歩踏み出すと、足元の床が沈んだ。


 その言い知れない感覚におののいて、早紀は次の足を踏み出せなかった。


 代わりに。


 真理が、歩み寄ってきた。


 気づいたら、早紀は彼を少し見下ろすような形だった。


 ありえない角度。


 早紀を見上げる真理の目は、冷たくも深く差し込むような色をしている。


 いままで、早紀の見たことのない瞳。


 そんな彼が、ふっと視線を落とし、自分の右手の人差し指を噛む仕草を見せた。


 鮮やかな、赤い血がぷくりと浮き上がる。


 その指を、真理は早紀に向かって伸ばした。


 彼女の目と目の間──眉間か額の辺りに、生ぬるい感触が触れる。


 しゅるんと。


 指先が、そのまま弧を描く。


 ガシャンッ。


 全身の関節が。


 金属的な音を立てて外れた気がした。



 ※



 冷たい外気が──肌を撫でた。


 早紀は、自分の素足が床を踏みしめているのに気づく。


 目の前には、真理。


 しかし、いまはもう見下ろす角度ではなく、早紀が見上げる角度だった。


「あ…」


 声が、出た。


 腕も動く。


 自分の顔に、触れる。


 金属の気配も何もない、普通の柔らかさだ。


「なんだって?」


 修平が、驚きながら足元の干からびた少女と、立っている早紀を見比べる動きをした。


 早紀もつい。


 足元を見てしまった。


 制服姿の少女のミイラ。


 しかしもう、血は一滴も残っていないようだ。


 床さえ汚れていない。


「私…」


 自分の声が、少し違うように感じながらも、早紀は言葉を探した。


 真理に問うべきことがあったのだ。


 最重要の疑問がひとつ。


「私…魔女なの?」


 瞬間。


 真理は、眉間を押さえた。


 その様子は、何と言ったらいいのだろうか。


 失望というか、落胆というか、呆れというか。


「お前は、いままで自分が何の学校に通っていたのか知らなかったのか」


 頭が痛そうに顔を顰めながら、真理は上着を脱ぎ始めた。


 脱いだそれを、早紀に放り投げる。


 学校?


 反射的に服を受け取りながら、真理の言葉を組み立てようとした時。


 それよりも重要な事実に気づいた。


 何故、彼が上着を投げたのか。


 そう。


「……!」


 早紀は──まっぱだかだったのだ。



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