知らなかったこと
はっと。
我に返った時──早紀は、立ち尽くして前を見ていた。
暗いはずなのに、世界ははっきりと見えている。
たくさんの、骨董品が置かれている部屋の中。
真理が立っていた。
そして、早紀を見ていた。
真理の後ろには、修平もいる。
あ、れ?
見覚えのある構図に、早紀は混乱していた。
そして。
何より彼女を混乱させたのは。
真理の足元には。
少女が倒れていた。
真っ黒な髪と、真っ赤な血の海。
その血が、まるで生きているかのように、いま立っている早紀の方へと吸い上げられていく。
干からびていく少女。
それが、一体誰なのか──早紀は知っていた。
「……!」
何か言おうとして、口がきけないことに気づく。
動こうとして、自分の身体がまるで金属のようにこわばっていることにも気づく。
しかし、動くことは出来た。
ズシン。
一歩踏み出すと、足元の床が沈んだ。
その言い知れない感覚におののいて、早紀は次の足を踏み出せなかった。
代わりに。
真理が、歩み寄ってきた。
気づいたら、早紀は彼を少し見下ろすような形だった。
ありえない角度。
早紀を見上げる真理の目は、冷たくも深く差し込むような色をしている。
いままで、早紀の見たことのない瞳。
そんな彼が、ふっと視線を落とし、自分の右手の人差し指を噛む仕草を見せた。
鮮やかな、赤い血がぷくりと浮き上がる。
その指を、真理は早紀に向かって伸ばした。
彼女の目と目の間──眉間か額の辺りに、生ぬるい感触が触れる。
しゅるんと。
指先が、そのまま弧を描く。
ガシャンッ。
全身の関節が。
金属的な音を立てて外れた気がした。
※
冷たい外気が──肌を撫でた。
早紀は、自分の素足が床を踏みしめているのに気づく。
目の前には、真理。
しかし、いまはもう見下ろす角度ではなく、早紀が見上げる角度だった。
「あ…」
声が、出た。
腕も動く。
自分の顔に、触れる。
金属の気配も何もない、普通の柔らかさだ。
「なんだって?」
修平が、驚きながら足元の干からびた少女と、立っている早紀を見比べる動きをした。
早紀もつい。
足元を見てしまった。
制服姿の少女のミイラ。
しかしもう、血は一滴も残っていないようだ。
床さえ汚れていない。
「私…」
自分の声が、少し違うように感じながらも、早紀は言葉を探した。
真理に問うべきことがあったのだ。
最重要の疑問がひとつ。
「私…魔女なの?」
瞬間。
真理は、眉間を押さえた。
その様子は、何と言ったらいいのだろうか。
失望というか、落胆というか、呆れというか。
「お前は、いままで自分が何の学校に通っていたのか知らなかったのか」
頭が痛そうに顔を顰めながら、真理は上着を脱ぎ始めた。
脱いだそれを、早紀に放り投げる。
学校?
反射的に服を受け取りながら、真理の言葉を組み立てようとした時。
それよりも重要な事実に気づいた。
何故、彼が上着を投げたのか。
そう。
「……!」
早紀は──まっぱだかだったのだ。