表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極東4th  作者: 霧島まるは
78/162

---

 ど、どうしよう。


 早紀は、鎧の側で固まったまま動けずにいた。


 イデルグの息子と思われる男は、すぐ近くに迫っている。


 彼女の存在に、気づかないままだ。


 自分の能力を、疑っているわけではない。


 子供の頃から、無意識に使ってきた能力だったし、蝕の戦場でもその力はいかんなく発揮されているようだ。


 しかし、さすがに目の前に来れば、分かるのではないだろうか。


 ましてや、彼は早紀の能力を知っているようだ。


 知っているからこそ、強く意識をこらせば気づかれると思った。


 零子も、タミも──イデルグも、「いる」と分かっているのならば、速さの差こそあれ、早紀を見つけたではないか。


 は、離れよう。


 ゆっくりそっと、ホールから出て行こう。


 早紀が、そーっと動こうとした瞬間。


 男は、ぴたっと動きを止めた。


 まるで。


 耳を澄ますみたいに。


 早紀も、足をぴたっと止めた。


 視線が。


 イデルグの息子の視線が、軽く周囲に巡らされる。


 気配はなくとも、空気が動くのは止められない。


 足音だって、ほんのわずかくらい、生まれているのかもしれない。


 あの父の血を、受け継いでいるのだ。


 鋭くても、おかしくなかった。


 動きを止めたおかげか、幸い見つけられなかったようだ。


 しかし。


「いるのか? カシュメル卿の魔女」


 堂々と呼びかけられて、更にどきっとする。


 大胆で、効果的な方法だった。


 早紀は、客人で。


 もしこの呼びかけに応じず、自力で彼に見つけられてしまったら、スパイ容疑くらいかけられそうだ。


 やましいことが、ないのならば。


「います…」


 カシュメル卿とやらのために──答えておくべきだった。



 ※



「マジか…」


 早紀の存在を、声から認識するやいなや、イデルグの息子は目を見開いた。


 ようやく、焦点の合った瞳。


 そして。


「マジだ…こりゃ…すげえな」


 笑い出す、大きな口。


 おかしくてたまらないように、彼は身体をのけぞらせて笑う。


「なるほど…確かに、一筋縄じゃいかないぜ」


 早紀に近づきながらも、彼の笑いは止まらない。


 対する彼女は、どう反応したらいいのか分からなかった。


 一体、どんな風にイデルグは、彼女のことを言ったのか。


「だが…面白い…面白いぞ、お前」


 大きな手が。


 がしっと、早紀の手首を掴んだ。


 反射的に身を引こうとするが、掴まれた手はビクともしない。


「オレは、甲斐…お前は?」


 魔族にしては、好奇心に満ち溢れた強いまなざし。


 早紀が逃げたがっていることさえ、自分の欲望に正直過ぎて、気づいていないようだ。


「あ…」


 引き結んだ唇を、動揺したせいで開いてしまった。


 魔女ではなく、過去の早紀に戻ってしまう。


「あの…手…」


 離して。


 何とか、そこまで声に出来た。


「ん? ああ…いや、駄目だ。手を離したら、お前消えるだろ? 早く、名前を言え」


 だが、向こうはさっぱり譲歩しなかった。


 早紀の能力に対する衝撃が、彼に手を離させないのか。


 こうなったら、とにかく早く名前を名乗って、解放してもらうしかない。


「さ…早紀」


 空を切りそうになる唇で、ようやく名前を声にした。


「早紀か、了解…それじゃあ早紀…」


 名前を、視線に乗せる、というのだろうか。


 甲斐という男は、前よりも強いまなざしで彼女を見た。


 そして──こう言った。


「早紀…オレの子を産まないか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ