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極東4th  作者: 霧島まるは
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血統

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 早紀の知らない、母親の話だった。


 元々、ほとんど知らない実母のことだ。


 彼女は、何を聞かれても「知りません」以外の答えを言うことはないと思っていた。


 しかし。


 宙空に現れた、自分の母親の若い姿に、正直驚いたのだ。


 今にも動き出しそうなほど生き生きと、貴沙という女性は自分を睨んでいたのだから。


 ほけーっと口が開きそうになって、慌てて引き結ぶ。


 零子のように、タミのように。


 静かな顔でおとなしくしていよう──そう思った。


 どうせ、早紀は全然似ていないのだ。


 すぐに、イデルグは彼女に興味を失うだろう。


「オレの子供を、産ませたかったんだがな」


 なのに。


 爆弾発言が投下され、早紀は目を見開いてしまった。


 産ませたかったという希望の言葉なので、彼は自分の父親ではない。


 すぐにそう理解したが、彼女の中ではいまだ謎なその部分に触れられたせいで、ひどい驚きになってしまった。


「ほう…なかなか、個性的な顔にもなるな」


 イデルグのコメントに、慌てて早紀は人形の顔に戻る。


「貴沙に子供を産ませた男は、一体誰だ? オレを袖にしたんだ…生半可な相手じゃあるまい」


 だが、おとなしく人形に戻してくれるはずがない。


 やはり、話がそっちへと運ばれていく。


 早紀は。


 真理を見た。


 答えていいかという問題以前に、答えようがなかったのだ。


「……言えない相手ですよ」


 真理の言葉には、あらゆる含みが込められている気がした。


 お話する理由はありません、という拒絶。


 それと──言うには、はばかられる相手です、という揶揄。


 はばかられる。


 それほどすごい相手という意味にも取れるし、それほどひどい相手とも取れる。


「なるほど…まさか、あのお方じゃないだろうな…はははははっ」


 自分の言葉に、傑作だとイデルグは大きく笑った。


 すごい方で解釈してしまったようだ。



 ※



 早紀が、複雑な気持ちのまま、晩餐の席に座っていると。


「…お子さんは?」


 ずっと黙っていた真理が、するりと声を吐き出す。


 冷気もないが、興味もない口ぶりだった。


 興味もないのに聞くということは、話を別方向へそらそうという思惑があるのだろう。


 早紀の母親や、出生の話をあまり蒸し返されたくないのだ。


 それは彼女も同じだったので、話の行方が気になり、真理の声を追うように、イデルグの方を見た。


「ああ、三人いる。男は二人…双子だ」


 ニヤリと、1stは笑う。


 さすがは魔族である。


 好きだった魔女に袖にされても、そのまま諦めきれずに操立てなど、するはずがなかった。


 そのニヤリは、どこか本気で面白がっている顔である。


「…それは、お気の毒に」


 真理は、やはり興味のない口調で、社交辞令的に返す。


 お気の毒?


 早紀は、意味が分からなかった。


 双子。


「男が二人いるだけでも厄介なのに、双子だぞ…まあ、せいぜい殺しあってくれ、ってとこだ」


 イデルグの笑いに、早紀は動きを一瞬止める。


 何か、物凄い発言を聞いた気がしたのだ。


 いやな理解が、彼女の頭に浸透していく。


 そうか、と。


 イデルグの息子ということは、彼が引退した後、鎧を引き継ぐということだ。


 しかし、鎧は一つ。


 受け継げるのは、たった一人だ。


 普通ならば、一番上の男が継ぐ気がするが、双子ではどちらも納得しかねるだろう。


 しかも、魔族なのだ。


 おとなしく、相手に鎧を譲るはずがない。


「ついでに、ご自身が殺されないようご注意を」


 しれっと真理も、怖い言葉を上乗せする。


「ははは、オレを殺せるならいっそ上出来だ」


 極東のトップは、身体だけではなくツラの皮もしっかり鍛えているようだった。



 ※



 晩餐後、すぐに帰る、という方向にはならなかった。


 イデルグは真理を連れ立って、話をするために別室へと向かってしまったのだ。


 ぽつん。


 残されたのは、早紀だ。


 勿論。


 イデルグは、使用人に彼女を他の部屋に案内するよう命じたのである。


 そして、二人は先に行ってしまった。


 ぽつん。


 使用人は、主の命令を遂行しなかった。


 いや、出来なかったのだ。


 何故なら、早紀の存在を一瞬で見失ってしまったからである。


 おかげで。


 彼女はまるで空気のような存在感で、手持ち無沙汰になってしまったのだ。


 まあ。


 ある意味、気楽だった。


 どこにいたとしても、どんな変な行動をしたとしても、誰もそれを認識できないということである。


 よその魔族の屋敷など、入ったことのない早紀は、ゆっくりと歩き出した。


 大きなホールを覗くと、黒い甲冑が飾ってあるのが見える。


 イデルグが身につけている本物かと、近づいて見てみたが、造型は全然違った。


 ただの飾りなのだろう。


 貴重な本物を、こんなところに置きっぱなしにしているはずがない。


 息子が二人、鎧の後継を狙っているのだから、なおさらだ。


 ふと。


 背後に気配を感じて、早紀はどきっとしながら振り返った。


 誰かが入ってきたのだ。


「ふぅ…」


 ため息混じりに、その人物は早紀の方へと近づいてくる。


 少年──というには、既に身体がきっちりと出来上がっている気がした。


 しかし、一目で分かった。


 イデルグの息子だと。


 彼の血を色濃く受け継いでいる、力強い肉体派だったのだ。


 双子の片割れだろう。


 目は、何も見てはいない。


 早紀の存在に、気づいていないのだ。


「見えない魔女って…ホントかよ」


 難しい顔をしながら、ぼそっと呟かれた言葉は──早紀の心臓を、強く跳ねさせたのだった。



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