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極東4th  作者: 霧島まるは
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車内

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 学校へ行くのと同じ車で、しかし、違う行き先に向かうための車に乗り込む。


 早紀はただ、唇を引き結んでいた。


 真理は、窓の外を見るでもなしに見ている。


 気配から、早紀へのささくれのようなものは感じない。


 もう、昨日のことなど、どうでもいいのだろうか。


 傷は隠れているが、痛みはまだ、彼女の額に残っているというのに。


 元々。


 毎日同じ車で登校していたが、一言も会話をかわさないことなど当たり前だった。


 話があるとしても、一方的なものだけ。


 いつも通りと言えば、おかしいことなどない。


 すべての支度が整って、早紀が鏡を見た時。


 正直、悲鳴をあげそうだった。


 いつもの自分からは想像もできない、正統な魔女が鏡の中にいたからだ。


 教えられた通りに、しっかりと唇を閉ざしていると、その唇が開いた瞬間に魔法をかけられそうな錯覚を覚えるほど。


 育ての母への思いを、髪と一緒に断ち切ったからだろうか。


『魔女に…なったか』


 真理の言葉が、脳裏に甦った。


 彼が言葉にするほど、今の自分は魔女になっているのだ。


 魔女でありながら、魔女に近づかないようにしていた足かせが、薄れているのが自分でも分かる。


 海へ逃げることも出来ず、三度目の死を免れたことも、早紀の選択肢を減らし、魔女の道へと追いやっていった。


 そして何より。


 あの充足感が、早紀を掴む。


 麻薬のように、もう一度あれを望む自分がいるのだ。


 ふと。


 視線を感じた。


 真理の瞳だけが、こちらを見ている。


 目を──そむけてしまえばよかったのだ。


 なのに、見返してしまった。


 真理の瞳の中の自分を、見ようとしたのかもしれない。


 でも、それは不可能だった。


 彼が先に、目をそらしてしまったのだ。



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