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極東4th  作者: 霧島まるは
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死×死

「よぉ、魔女」


 その声に、きょろきょろとする。


 なんだか暗いところ。


 魔女?


 放たれた言葉が、宙を飛んできたので、捕まえてみる。


 捕まえた時、自分に手があることに気づいた。


 その手につながる腕があり、自分に身体があることに気づいた。


 足もついている。


 真っ黒な服を着ていた。


「お前を呼んでんだ、魔女」


 自分の状態を確認していたことを邪魔するように、目の前に大きな影が飛んでくる。


 はっと顔を上げると。


 黒い男がいた。


 黒い鎧の男。


 たくさんの鋭い棘をもつ鎧。


 金属の黒というより、まったく光を反射しない重い黒。


「魔女…私?」


 声が、出た。


 無意識に喉に触ったが、異変はなかった。


 何故、異変があると思ったのだろう。


「ここに来た、ということは魔女に決まってるだろ…変な女だな」


 そのとげとげしい鎧の腕が、伸ばされる。


 怖いと思いかけたが、動けなかった。


 動くと、自分からその棘に刺さりそうな気がしたのだ。


「小娘か…どうりで青臭い味だったわけだ」


 伸ばされた腕は、どこも傷つけることなく、早紀の顎を捕らえる。


 見つめられているのは分かるが、こっちからは相手がよく分からない。


 黒い兜が、全てを覆い隠しているから。


 そんな鎧兜の存在は。


「まあいい…おかげで俺は甦ったからな…さあ、もう一度死のうじゃないか、魔女」


 笑ったような声で。


 さらりと。


 物凄いことを言った。


 もう一度?


 死のう?



 ※



 ああ、そうか。


 分かってきた。


『早紀』は、分かってきた。


 自分は、死んだのだ。


 真理に喉をかききられて。


 ここは、死後の世界だろうか。


 この鎧の存在は、死神だろうか。


 何故、自分は魔女と呼ばれるのか。


 そんなたくさんの疑問よりも。


 そうか。


 死んじゃったのか。


 早紀は、小さなため息を落としていた。


 図太く静かに、空気のように生きてきたが、それでも早紀は生き延びることは出来なかった。


 記憶が、少しずつつながっていく。


 自分が、真理のいる屋敷に引き取られたのも、何だか分からないこの死のためだと修平は言っていた。


 むかしむかし、あるところに。


 そんな都合のいいおとぎ話など、やっぱりなかったのだ。


 そして、真理が自分を殺した。


 何だろう。


 その事実が、無性に悲しかった。


「そうね」


 早紀は、棘だらけの鎧を抱きしめようと手を伸ばした。


「そうね…また、死んじゃおうか」


 むかしむかし。


 そんなおとぎ話さえ、思い出さないくらいの虚ろな存在になってしまいたかった。


 躊躇なく。


 早紀は、鎧を抱きしめた。


 強く、強く。


 いくつもの棘が、自分の身体を貫いたのを感じながら。


「何だ…泣いてやがるのか?」


 馬鹿な奴だ。


 鎧の男が──微かに笑った。


 瞬間。


 黒い炎が、鎧の男と自分を囲むように燃え上がった。


「合格だ、魔女…お前とひとつになってやろう」


 早紀を刺し貫いた棘が、自分を絡め取るように伸び、鎧の中に取り込もうとする。


 黒く冷たい金属の中に、彼女の身体は沈んでいく。


 中は──からっぽだった。


 空洞というより、空虚。


 その隙間を埋めるように、早紀は取り込まれた。


「死×死が、何か知ってるか、魔女?」


 鎧の内側を伝って、声が鼓動のように早紀に押し寄せる。


 笑う、鼓動。


 その鼓動に、自分が溶けていくのを感じながら――早紀は思考力を失って、意識を閉じたのだった。



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