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極東4th  作者: 霧島まるは
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完璧主義者

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 相手が女とはいえ。


 身体を見られるのは、決して平気なわけではない。


 しかも、相手はきちんとした姿をしているにも関わらず、自分はパンツ一枚の情けない姿だ。


 さっきから、早紀の身体を眺めては、クローゼットからドレスを引っ張り出し、投げ捨て、また引っ張り出しを繰り返す。


「あの…一体何が…」


 次の服を掴んで振り返ったタミは、それを彼女に押しつけるように突き出す。


「着て」


 有無も言わさぬ迫力に気圧されながら、早紀はそれを握らされていた。


「今夜…イデルグ家に招待されているの」


 服をいじっている彼女に、タミは続ける。


 はっと顔を上げたが、向こうは早紀の反応よりも、服を着る作業に視線を向けたまま。


 慌てて、早紀は服に頭と袖を通した。


 イデルグ──1stの鎧の人だ。


 真理の思考を通して、早紀にもわずかながらに他の鎧の主の知識がある。


 鎧を持っているのだから、カシュメル家と負けず劣らずの家系なのだろう。


 そこに。


 誰が、招待されたというのか。


 背中を長く走るファスナーに苦戦しながら、疑問を組み立てようとしていたが。


「あなたの主と…あなたがよ」


 背中に回ったタミが、ジャッと一気にファスナーを引き上げる。


『主』


 その表現に、どきっとした。


 この心にある、どうしても断ち切れない何かを、言葉にするとそういうものになるのだろうか。


 絶望し、死にかけたのはつい昨日のこと。


 しかし、その死の崖っぷちで、断ち切れないそれを見てしまった。


 そして。


 その『主』なるものと重なる瞬間を、渇望してしまったのだ。


 この感情は、鎧と一体化しているせいなのか。


 鎧の男の感情が、早紀の中に流れ出しているのだろうか。


 自分の感情に戸惑っている彼女を、タミがじっと見ている。


 視線に気づいて、引け腰になっていると。


 手袋の手が、伸ばされた。


「リボン…も、黒がいいわ」


 言われて、はっとしていた。


 いつも自然と髪に絡みついている、深い青のリボン。


 一瞬だけ、伊瀬が脳裏をかすめる。


 早紀は。


 青のリボンを──外していた。



 ※




 タミのこだわりは、半端ではなかった。


 出かけるのは、夜からだと聞いたのに。


 普段から、自分のスタイルにはポリシーがあるのだろうとは分かっていたが、早紀に服を貸すだけでは終わらなかったのだ。


 一度着せた服を、ひんむかれた後──髪を、切られた。


 ハサミを出された瞬間、喉にせり上がった感情を、早紀は言葉に出来なくて。


 母を、忘れないための髪だった。


 だが。


 もはや、誰にも義理立てをする必要などないのだと。


 そう思うと、ひどい葛藤が喉の中で渦巻いたのだ。


 しかし。


 髪を切るのもいいかもしれない──そう、観念してもいた。


 母への愛の感情は、決して消えてはいない。


 ただ、会うことはもう出来ないのだ。


 生きている事実だけを喜び、それをただ、愛に変えて行こうと思った。


 その踏ん切りとして、髪を切るというのはいいことに感じたのである。


 シャリッ。


 重苦しいおかっぱを、タミが削ぎ落としていく。


 頬から顎のフェイスラインに沿うように、髪が流される。


 前髪も。


 トップも。


 随分重かったのだと、足もとに散り落ちる髪の量でよく分かった。


 髪を切り終えるや、今度はバスルームに連れ込まれる。


 奇妙な形の薬の瓶が、山ほど並べられていて。


 バスタブに落とすもの、磨き上げるためのもの。


 むせかえる不思議な香りに包まれながら、早紀はタミに磨き上げられた。


 完璧主義者。


 まさに、その言葉がぴったりだ。


 魔力オタクだとは思っていたが、完璧主義者という素地がオタクを後押ししたのだろう。


 身分は、はるかに早紀よりいいはず。


 それでも、タミが自分に構うのは、早紀の持つ特殊な能力について知りたいからだろう。


 魔力オタクとして、完璧主義者として、プライドを犠牲にしても手に入れたいに違いない。


 プライドを犠牲にしても──その点が、タミのすごいところだと思った。


 目的のためなら、曲げられないものでも曲げてくる。


 少しだけ。


 好きだな、と思った。



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