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極東4th  作者: 霧島まるは


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三度目?

---

 伊瀬が、その青い空間から消えてしまったために、早紀は一人で取り残されることとなった。


 人間のような様式で、暮らす魔族とは違う。


 毎夜入る夢の世界にも似た、シンプルで何もない世界。


 早紀は、壁にあたる部分に触れる。


 微かな弾力と共に、彼女の指は押し戻された。


 伊瀬は、自然にすり抜けて行ったが、普通に触れただけでは出られないのだろう。


 ふぅ。


 早紀は、床に座り込んだ。


 これから、どうしたらいいのだろう。


 次の蝕が来た時、自分の中の鎧は、間違いなく戦いたがる。


 しかし、鎧の主とは遠く離れてしまっているのだ。


 それで、鎧が許してくれるとは思いがたい。


 更に。


 早紀は、自分が鎧の憑き魔女である事を、伊瀬に伝えていなかった。


 ついさっきまで、その事実を忘れていたのだ。


 額の印の意味を知っているなら、既に気づかれていることだろうが。


 とぷんっ。


 壁がたわんだ。


 反射的に振り返ると――伊瀬が、戻ってきたところで。


 青ざめた、顔。


 彼の肌は、しっかりと日にやけていて、普通ならば顔色は分からないはずだ。


 しかし、青銅になってしまったかのような肌が、早紀の足を縫い止めた。


「すまない…」


 一歩。


 この空間の外は、真水か海水か。


 しかし、雫ひとつしたたらせることなく、乾いたままの伊瀬は、一歩を踏み出した。


 早紀の方へ。


 ずしんと、床が揺れた気がする。


 あ。


 さあっと、血の気が引いていく。


「すまない…おそらく、『きみ』には罪はないのだ」


 言っている意味は、分からない。


 しかし、彼が何をしようとしているのかは、感じていた。


 また、殺されるんだろうな。


 早紀は、ため息をついた。


 二度死んだ経験は――伊達ではなかった。



 ※



 大きな手。


 片手でも、楽に掴めそうなのに、伊瀬は両手を早紀の首に回した。


 今度こそ…本当に死ぬんだろうなあ。


 理由も分からず、既に二度殺されたのだ。


 今度の死は、まだ分かりにくいながらに理由がある。


 実の母親の、ツケを支払うということだ。


 払ってやる義理などはない。


 しかし、早紀が生きている意味を見いだせない以上、抵抗してまで生に執着する気になれなかったのだ。


「何故だ…」


 首にかけられた手に、まだ力はこめられない。


 代わりに、伊瀬の苦しげな声が漏れ落ちる。


「何故、君はそんなにも魔女らしくないのだ…海が…我らの力が、そうさせるのか」


 魔女らしくないなんてもう、聞き飽きてしまった。


 第一、少し前まで自分は人間だと信じて疑っていなかったのだから。


「魔族なんて……」


 早紀は、首にかけられた手を温かくさえ感じた。


 真理の手は――冷たかった。


 彼は、早紀を一番最初に殺した。


 脳裏に、真理の冷たさがよぎる。


「魔族なんて…クソ食らえよ」


 言った直後。


 胸がしめつけられた。


 ああ。


 思い出したくない記憶が、掠めてしまう。


 初対面で、早紀を追い出そうとした男の子がいた。


 それからずっと、追い出そうとしていた少年がいた。


 今夜、家に帰ってくるなと言った男がいた。


「愛されろ」、と言った魔族が――いた。


 あれは、なんだったのか。


 彼は――何をしたかったのか。


 今更。


 今更考えても、何もかも遅く詮ないことだ。


 早紀は、死ぬ。


 今度こそ、本当に。


 苦しげに、伊瀬は指に力を込めた。


 その力に押されるように、早紀は天を仰ぐ。


 青い天井。


 その天井から―― 一滴、青い水がしたたった。



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