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極東4th  作者: 霧島まるは
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そして早紀は死んだ

「さあ、役に立つんだ」


 早紀をぶら下げたまま、修平は笑った。


「そのために…引き取られたんだから」


 人間とは思えないほどの狂気の瞳と力が、早紀を廊下へと釣り出す。


 いま、何と。


 修平は、いま何と言ったのか。


 遠い遠い親戚の早紀を、何故か引き取ってくれた優しい人たち。


 何故か、引き取ってくれた。


 呆然として、うまく考えられない。


 抵抗も出来なかった。


 一瞬すれ違った真理が──自分を見ている。


 いつも通りの、目で。


 すぐに、再び暗い部屋に連れ込まれた。


「美しき物よ…お前を甦らせる女を連れてきたぞ」


 劇の様に大げさに、修平は引き上げている早紀を床に放り出した。


「ああっ!」


 床に身体を打ちつけながらも、早紀はその先にあるものを見てしまった。


 ほの白く、闇に浮かび上がる大きな物。


 人のような姿のそれが、自分を見下ろしている。


 それが、少し身じろいだかと思うと床が震えた。


 とてもとても──重いもの。


「私がやろうか?」


 修平の声が、廊下を向いていた。


「…俺がやろう」


 声は。


 真理のものだった。


 ゆっくりと、背後から足音が近づいてくる。


 早紀の、ほんのすぐ後ろに。


 すぅっと、その存在が身を屈めた気配。


 修平のもの以上に冷たい指先が、床の早紀の喉元にかかった。


 何を…。


「言うことを聞かなかったんだ…あきらめろ」


 真理の指が──喉を鋭く撫でる。


 カッと。


 焼けるような痛みが走った。



 ※



 目の前に、黒いしぶきが飛ぶ。


 それが何なのか、早紀は分からないまま見つめていた。


 しぶきは、噴水のように前方に飛び散り、大きな何かの足元を濡らす。


 なまあたたかい滝のような液体が、自分の喉を、制服を伝う。


 声を出したかった。


 なのに、声の出し方を忘れてしまった。


 嗚咽ひとつ出せない。


 それどころか。


 息さえできていない気がした。


 ひゅぅと、変な空気の漏れる音。


「素晴らしい! 素晴らしい!」


 修平の声が、遠くに聞こえる。


 ほの白かった存在の足元から、塗り替えられるように黒さが這い上がっていく。


 それを呆然と聞くしか出来なかった早紀の頭の後ろに、冷たい吐息がかかった。


 そう。


 いま、彼女の真後ろにいるのは──真理。


「いいか…抵抗するな…愛されろ」


 変な。


 変な言葉。


 ましてや、真理の唇から『愛』というものが聞けるなんて。


 何に。


 誰に。


 視界が、次第に暗くなっていく。


 全身の力が、何かに吸い取られていく気分だ。


 心地いいではない。


 深く辛い闇に、足を掴まれて引きずり込まれるカンジ。


 それが。


『死』と言う言葉に、限りなく近いのだと、沈む意識の中で、早紀は気づいた。



 そして。


 早紀は。


 死んだ。


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