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極東4th  作者: 霧島まるは
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矛盾

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「そんなのウソです!」


 不覚にも、真理は驚かされた。


 早紀の大声を、現実的に聞く日が来るなんて、思ってもみなかったからだ。


 声は、廊下から。


 距離があって、ドアという遮蔽物があってなお、彼の耳まで大きく届いていた。


 何事かと視線を向けるが、ドアや壁が邪魔をして様子を伺うことは出来ない。


 その後、大きな声は打ち止めになったらしく、それ以上の声は真理の位置まで届かなかった。


 一体、誰相手に何の騒ぎなのか。


 珍しすぎる出来事だから、なのだ。


 真理は、ドアを開けたくなっていた。


 しかし、理性がそれを押しとどめてもいた。


 たかが早紀の大声で、自分が出て行くまでもない、と。


 どうせ、くだらないことに違いない、と。


 廊下は静まり返り、真理は興味を失うために視線を部屋の中に戻そうとした。


 コンコン。


 ノックが──それを許さなかった。


 ぴりっと。


 自分の指先に、電気が走る。


 彼が持っている力は冷気であって、電気ではないというのに。


「僕だよ」


 ドアの向こうにいたのは、従兄だった。


 早紀ではない。


 ふっと息をつき、中に招き入れる。


「一応、耳に入れておこうと思ってね」


 斜め後ろを、一瞬見る動作。


 さっき、早紀に大声を出されていたのは、この男なのか。


「彼女…変じゃないか?」


 彼女、とは早紀のことだろう。


 しかし、その彼女が変なのは、今に限ったことではないだろうに。


「魔女の写真を出して、この人を知らないかと言うんだ」


 不可解な視線の動き。


「…誰の写真だったと思う?」


 そんな修平の視線が、真理の眉間で止まった。


 分かるはずのない真理は、瞼の動きだけで先を促す。


「彼女の…母親の写真さ」


 一瞬──早紀の部屋で見た、魔女らしくない女の笑顔が、真理の頭をよぎった。



 ※



 修平が真理に差し出したのは、あの母親の写真──ではなかった。


 彼の言葉にショックを受けた早紀が、写真を置き去りにして部屋に駆け込んでしまったらしい。


 写真の中にいるのは、騒々しそうな魔女。


 早紀とは、似ても似つかない。


「これが…母親か?」


 真理は、眉間をせばめながら従兄に聞いた。


「そうだよ…あの子を連れてきたのは、うちの両親だからね。母親の魔女のことは、ちゃんと調べてあるさ」


 名前は──貴沙きさ


 カシュメルの、遠い血筋。


 そう説明する修平の言葉が本当ならば、早紀の部屋の写真は誰なのか。


 あの、魔女らしくない女。


「別の女を、母親だと思っていたのか」


 それ以外、真理には考えつかなかった。


 この写真を、どうひっくり返しても、早紀の部屋の女にはならないのだから。


「さあ…よく分からないね。うちの親の遺品を整理すれば、何か資料があるかもだけど」


 何しろ、大事な鎧のイケニエだろう?


 ちゃーんと調べてあるはずさ──そう、修平は言うのだ。


 早紀の両親は、どちらも魔族だ。


 そう真理は、彼女に告げた。


 それは、彼が両親のことを調べた、という言葉でもある。


 その嘘を保守するためには、真実の母親のことくらい知る必要があるかもしれない。


 あの早紀が、大声を出すほど衝撃を受けたのである。


 真理に、聞きにくる可能性があった。


 最近の早紀は、彼を驚かすことをするからだ。


「遺品を…見せてもらおう」


 真理は、写真を机に置いた。


「今からかい?」


 意外そうな修平の言葉には答えず、黙ったまま意思を伝える。


「…分かったよ、当主殿」


 苦笑しつつ部屋を出る、修平について歩き出した。


「憑き魔女ってのは面倒だね…鎧に押し込んだまま、出さなきゃよかったと思わないかい?」


 前をゆく修平は、振り返らないまま真理に軽口を叩く。


 余計なお世話だな。


 真理は──答えなかった。



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