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極東4th  作者: 霧島まるは
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利害

 こ、こ、ここは魔族の学校デスヨ!!


 早紀は、目を白黒させたまま、錯乱状態に陥っていた。


 慌てて周囲を見回してしまうのは、誰かが見ているのではないかという恐怖感のせい。


 だが、彼がここに早紀を訪ねてきたということは、彼女のことを魔族だと知った、ということでもある。


 魔族だと知って遠ざかるならまだしも、一体何の用があるというのか。


 伊瀬は、人差し指を下ろして、微かに口元を微笑ませる。


 早紀が、騒ぎ立てないことが分かったからだろう。


「やっぱり…思った通りの子だ」


 優しい、声。


 早紀が魔族と知る前に、彼の出した声と同じ音。


 いまなお、伊瀬はそんな声で語りかけてくれるというのか。


「君にお礼がしたくてね…最初は。だから…君のことを調べてしまった」


 優しい声が、経緯を語り始める。


 お礼ごときのために、魔族の学校に侵入したなんて、おめでたすぎる。


 大体、早紀は彼にとってお礼の対象では──


「そしたら…君が魔族だと分かった…カシュメルの家にいることも」


 しかし。


 伊瀬は、全てを知っていた。


 その上、どういう意味かは分からないが、カシュメルの名前も。


 カシュメルの当主が鎧を身につけ、戦いに出ているということを、知っているということなのか。


 反射的に、早紀が一歩下がりかけた時。


「ああ…いや、怖がらないで欲しい…私は君の…魔族である君の助けが必要なんだ」


 伊瀬の方が、先に一歩下がる。


 初めて出会った時も、早紀を怖がらせないようにしてくれた人。


「もし、話を聞いてくれる気があるなら…すまない…手に触れさせてくれないか?」


 複雑な戸惑いに振り回されている彼女に、伊瀬は不思議な言葉を並べた。


 手?


 つい、自分の手を見つめてしまう。


「正直…そろそろ限界でね…海から離れすぎると…こうなる」


 大きな身体が、微かに傾ぐ。


「……!」


 敵地に。


 話を聞く、確証もないというのに。


 海族の身体で乗り込むなんて。


 早紀は、慌てて手を伸ばしていた。


 確かに彼女の身体の中にある──海の力が、伊瀬に流れてゆく。



 ※



「魔女を探している…血筋で言えば、カシュメルの…」


 早紀の手に渡される、一枚の写真。


 艶やかで、見ているものの視線を惹きつけてやまない、強い強い瞳。


 長い黒髪は、くるんくるんと好きな方に浮き、跳ね回っている。


 どう見ても魔女。


 タミや零子と反対の、騒々しい方の魔女だ。


「この人を…何故?」


 魔女と、関わりのある人間には見えなかった。


 授業の始まる鐘が鳴る。


「昔…我らの宝が盗まれた。その犯人を…私はずっと探している」


 その鐘の音の中、伊瀬は語り始めた。


 写真の魔女は、一人で海族の中に飛び込み、宝物庫からそれを奪っていったと。


 その方法は、決してスマートではなかった。


 多くの海族に姿をさらしながら、宝を奪い、そして逃げていったというのだ。


 俊敏で、そして『アバキ』と、彼らが名づけた能力を持っていた。


 天族寄りの能力を持つ眷族が、全てそのアバキでしてやられたのだと。


 記憶や知識、秘密──それらを彼女はことごとく、天族寄りから吐き出させたのだ。


 そのおかげで、海族でも一部しか知らない抜け道から、逃げおおせた。


「私は…宝を取り返したい」


 この魔女を、探しす手伝いをしてほしい。


 そう、伊瀬は言うのだ。


 突然そんなことを言われても。


 困ってしまうのが、早紀だ。


 カシュメルの血筋と言われても、早紀はあの屋敷以外のことはまったく知らないのだ。


 それに。


 伊瀬を手伝うということは、海族を手伝うということで。


 そんな事実がバレたら、早紀は身の破滅ではないのか。


 しかし。


 何度も確認するが、相手は海族。


 彼女の中にある、海の力の秘密が分かるかもしれない人でもあった。


 あらがいがたい、誘惑の瞬間。


 ごくり。


 早紀は、生唾を飲み込んでいた。


「私のお父さん…あなたたちの眷属かもしれないんです」


 しらべて、くれますか?


 真理の言葉を──鵜呑みになんて出来なかった。


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