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極東4th  作者: 霧島まるは
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ごあいさつ

「おかあさん、おはよう…」


 ちょっと複雑な気分で、母親に挨拶は済ませた。


 夢の中から持ち帰った、記憶のせいだ。


 早紀の、父親に関すること。


 確かに、住んでいたところの近くに、海はあった。


 母親と出かける時に通る道は、いつもどこか魚の匂いがしていて。


 だが、それ以外の父親の記憶や、海との関連を探そうとしたが、有力な手がかりはなかった。


 そんな、早紀の記憶の糸は、途中で切れてしまう。


 好きで切れさせたわけではない。


 ノックのせいだ。


「は、はい…」


 ベッドの上に座ったまま、母の写真と向かい合って、結構考え込んでいたようだ。


 反射的に答えはしたものの、早紀はまだパジャマのままだった。


 慌ててドアの向こうに、ちょっと待ってと言おうとした彼女だったが。


 遅かった。


 ドアが、開いてしまったのだ。


 あわわわ。


 早紀は、ベッドの上に座ったまま、お客を迎えるハメになってしまったのだ。


 そして。


 最悪なことに、来訪者は──真理だった。


 あ。


 昨日の件もある上に、パジャマのままとは、気まずいにもほどがある。


 最悪な状況に、早紀が小さくなっていると。


 真理が、一人ではないのに気づいた。


 彼の後ろに、誰かいる。


 修平かと思ったが、もっと小さい。


 立っていたのは、真っ黒い女性。


 早紀の第一印象は──それ。


 真理は、ベッドの上の情けない彼女を見るや、ため息をつく。


「お前は…」


 彼の呟いた一言で、十分だった。


 痛いほど、早紀もそれに打ちのめされている。


 初対面の相手に、いきなりパジャマで会うなんて、と。


 だが、その女性は、大きな瞳で部屋の中を見回す動きをした。


「ところで…『その方』は、何処に?」


 幸か不幸か。


 早紀は、彼女に認識さえしてもらえなかったのだった。



 ※



「す、すみません…ここです」


 そのまま消えてしまいたかった早紀だが、小さい声で自己を主張する。


 すると、大きな目が更に大きく見開かれた。


 間違いなく、早紀を見つけた目だ。


 その強いまなざしに、彼女は焼き殺されそうだった。


 一体、どちら様かは知らないが、こんな家にやってくる女性だ──魔女に決まっている。


「タミ、です…今後ともよろしく」


 パジャマ姿で、情けない姿の早紀に対し、それでも彼女は挨拶を投げる。


 ただ。


 言葉は控えめだったが、態度はやや上からだった。


 その様子に、早紀はビビりながらも、しかし、気になることがあった。


 今後とも?


 タミと名乗った女性は、そう言ったのだ。


 まるで、これから自分と付き合いが出来るかのように。


「ええと…」


 どう挨拶をしていいか分からずに、早紀は真理を見た。


 まだ、いっぱいわだかまりのある相手ではあるが、説明してくれそうなのは、この男しかいなかったのだ。


「これから、一緒に暮らす相手だ」


 その男とやらは、こともなげにそう言い放つのだ。


 一緒に…暮らす?


 ま。


 まさか。


 冷や汗をかきながら、おそるおそるタミを見た。


 手袋に、ブーツ。


 上から下まで全部真っ黒の彼女は、早紀を値踏みするように、じっと見ている。


 まさか、この女性が。


 頭の中に、零子との会話がよぎる。


『男は…子供を産めませんから』


 この女性が──真理の相手!?


 あいたぁ。


 早紀は、ベッドの上で半泣きになりそうだった。


 彼女の想像していた通り、キツそうな魔女と、最悪とも言える初めての対面をしてしまったのだから。


「早紀です…ヨ、ヨロシクお願いします」


 しゅうんしゅうん。


 小さくなりすぎた早紀を──またも、タミは見失ってしまったようだった。



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