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極東4th  作者: 霧島まるは
40/162

リボンの色

---

「へぇ…」


 夢の中。


 鎧の男は、面白そうに早紀を見る。


 そんなに彼女が、へこんでいるのが楽しいのだろうか。


 しゃべる気も起きずに、早紀はそこらに座り込んだ。


「面白いもの…持ち込んだじゃないか」


 伸びる、黒い金属の指。


 それが──早紀の髪に伸びる。


 はっと、彼女は身を引いた。


 そして。


 気づいた。


 夢の中だというのに、自分の髪に絡んだままの、あのリボンを。


 どうして、夢の中にこれが一緒に来てしまったのか。


「そうビクつくなって…鎧ってのは、結構いい加減でな。力なら…実は、何だって受け入れるんだよ」


 彼の言葉は、まるでこのリボンが何で出来ているか、知っているかのようだった。


 ここは、鎧自身の世界。


 そこに持ち込んだものなのだから、正体を知っていてもおかしくはない。


 だが、彼はそれを責めたりはしなかった。


「面白いもんに…会って来たんだろ? そいつをくれた奴、さ」


 逆に。


 鎧は、楽しくてしょうがない声をあげる。


 どうして、他の種族に会ったことを喜べるのか。


 敵なのに。


 だから──真理には、隠した。


 嘘をつこうとしたのだが、それで彼をかわせるとは、思わなかったのだ。


 嘘をついてしまえば、きっと暴かれる。


 あの真理なら、そうする。


 早紀は、言わないという道を選んだ。


 その決意を、唇に乗せて守ろうとしたのである。


「似合ってるぜ…そいつ…お前さんには、一番似合う色だ」


 真理と向かい合った時を思い出して、早紀は震えそうになっていた。


 それを、鎧は軽い声で破る。


 見上げる早紀を尻目に、彼は今度こそ鎧の指でリボンに触れる。


「お前の中にも…同じ色があるだろ?」


 ちゃぷんっ。



 ※



 早紀の足元に、水が漂っていた。


 それが、ちゃぷんと音を立てたのだ。


 何でもありの夢の中。


 驚いて、彼女は鎧を見上げる。


 なんで?


 早紀は、疑問を思い浮かべながらも、水に出会ったのは今回が初めてではないことにも気づいていた。


 何も考えられなくなった時。


 彼女の足元で揺れていたのは、何だったのか。


 もっと遡ると。


 鎧であった彼女の首筋から、武器が抜き取られる時、自分は水音を聞かなかったか?


 それは、早紀の中にずっと潜んでいたのだ。


 自分自身にさえ、隠れるようにひっそりと。


「だ、だって、私…魔族…」


 足首まで水に浸したまま、彼女は混乱していた。


 昼間。


 伊瀬は、この匂いを嗅ぎ取ったのだろうか。


 水は、リボンと同じ色をしていた。


 浅いはずの水なのに、光をほとんど与えられなかった色だ。


「オレも、契約の時にちらっと見ただけだ…」


 鎧の足が、水を蹴飛ばす。


「まあ、何だっていいさ…お前さんが、魔族じゃなくて、実は海族だったとしても構わないしな」


 早紀が、考えまいとしていたことさえ、平気でこの男は口にするのだ。


「私が海族ってこと…ありえるのかな…」


 頭をよぎるのは、伊瀬の顔。


 自分が魔族なんて、やっぱり未だにおかしい気がする。


 実は、何かの間違いで海族だったなら──早紀は、その希望をじっと見つめた。


「さぁな…俗世のことは、オレにはよく分からん」


 鎧は、そこで話を切り上げるのかと思った。


 早紀の足元の水を、消してしまったから。


 だが。


「お前さんが、もし海族というのなら…お前さんを作ったのは、海族ってことじゃないのか?」


 作る。


 そんな変な単語が混じっていたので、早紀はすぐにピンとこなかった。


 あっ。


 早紀は、水の失われた足元を見る。


 お父さん!?


 私のお父さん──誰?



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