リボンの色
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「へぇ…」
夢の中。
鎧の男は、面白そうに早紀を見る。
そんなに彼女が、へこんでいるのが楽しいのだろうか。
しゃべる気も起きずに、早紀はそこらに座り込んだ。
「面白いもの…持ち込んだじゃないか」
伸びる、黒い金属の指。
それが──早紀の髪に伸びる。
はっと、彼女は身を引いた。
そして。
気づいた。
夢の中だというのに、自分の髪に絡んだままの、あのリボンを。
どうして、夢の中にこれが一緒に来てしまったのか。
「そうビクつくなって…鎧ってのは、結構いい加減でな。力なら…実は、何だって受け入れるんだよ」
彼の言葉は、まるでこのリボンが何で出来ているか、知っているかのようだった。
ここは、鎧自身の世界。
そこに持ち込んだものなのだから、正体を知っていてもおかしくはない。
だが、彼はそれを責めたりはしなかった。
「面白いもんに…会って来たんだろ? そいつをくれた奴、さ」
逆に。
鎧は、楽しくてしょうがない声をあげる。
どうして、他の種族に会ったことを喜べるのか。
敵なのに。
だから──真理には、隠した。
嘘をつこうとしたのだが、それで彼をかわせるとは、思わなかったのだ。
嘘をついてしまえば、きっと暴かれる。
あの真理なら、そうする。
早紀は、言わないという道を選んだ。
その決意を、唇に乗せて守ろうとしたのである。
「似合ってるぜ…そいつ…お前さんには、一番似合う色だ」
真理と向かい合った時を思い出して、早紀は震えそうになっていた。
それを、鎧は軽い声で破る。
見上げる早紀を尻目に、彼は今度こそ鎧の指でリボンに触れる。
「お前の中にも…同じ色があるだろ?」
ちゃぷんっ。
※
早紀の足元に、水が漂っていた。
それが、ちゃぷんと音を立てたのだ。
何でもありの夢の中。
驚いて、彼女は鎧を見上げる。
なんで?
早紀は、疑問を思い浮かべながらも、水に出会ったのは今回が初めてではないことにも気づいていた。
何も考えられなくなった時。
彼女の足元で揺れていたのは、何だったのか。
もっと遡ると。
鎧であった彼女の首筋から、武器が抜き取られる時、自分は水音を聞かなかったか?
それは、早紀の中にずっと潜んでいたのだ。
自分自身にさえ、隠れるようにひっそりと。
「だ、だって、私…魔族…」
足首まで水に浸したまま、彼女は混乱していた。
昼間。
伊瀬は、この匂いを嗅ぎ取ったのだろうか。
水は、リボンと同じ色をしていた。
浅いはずの水なのに、光をほとんど与えられなかった色だ。
「オレも、契約の時にちらっと見ただけだ…」
鎧の足が、水を蹴飛ばす。
「まあ、何だっていいさ…お前さんが、魔族じゃなくて、実は海族だったとしても構わないしな」
早紀が、考えまいとしていたことさえ、平気でこの男は口にするのだ。
「私が海族ってこと…ありえるのかな…」
頭をよぎるのは、伊瀬の顔。
自分が魔族なんて、やっぱり未だにおかしい気がする。
実は、何かの間違いで海族だったなら──早紀は、その希望をじっと見つめた。
「さぁな…俗世のことは、オレにはよく分からん」
鎧は、そこで話を切り上げるのかと思った。
早紀の足元の水を、消してしまったから。
だが。
「お前さんが、もし海族というのなら…お前さんを作ったのは、海族ってことじゃないのか?」
作る。
そんな変な単語が混じっていたので、早紀はすぐにピンとこなかった。
あっ。
早紀は、水の失われた足元を見る。
お父さん!?
私のお父さん──誰?




