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極東4th  作者: 霧島まるは
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なぜこんな有様

 よかったよかった。


 放課後の早紀は、安堵の塊だった。


 昼休み、修平に電話をしたところ、彼の実家に泊めてもらえる手はずを整えてもらえたのだ。


 これで、真理の機嫌を今以上に損ねずに、なおかつ早紀も安心して眠れる。


 学校まで、修平が車で迎えにきてくれる手はずになっていた。


 裏門での待ち合わせなのは、表門だと真理の迎えの車と鉢合わせる可能性があるからだ。


 修平を巻き込んだ事実を知って、不機嫌の材料にされると困るので、裏門の提案は願ったり叶ったりだった。


 そんな夕方の裏門に。


 車が横付けされる。


 見覚えのある、修平の車だ。


「すみません、修平さん」


 窓を開けて顔を見せてくれる彼に、ぺこりと一礼。


 後見人ということで、とりあえず付き合いはあるし、軽い話はするものの、仲がいいというのとはちょっと違う相手。


 ただ、早紀よりもずっと大人なので、困った時には頼りになる。


「かまわないよ。やれやれ、真理にも困ったものだね」


 修平の苦笑を聞きながら、後部ドアを開け早紀は乗り込んだ。


 ただ。


 気になるところはある。


 いままで、真理に早く出て行け的なことは、何度も言われていたが、今日のような特殊な話は初めてだったのだ。


「今夜、何かあるんですか?」


 空気女の早紀が、ぼそっとそれを聞いてしまった。


 相手が、修平という気楽さもあったのだろう。


 彼なら不快なく答えてくれるのではないか、という。


 ふっと。


 運転席の気配が途切れた──気がした。


 はっと前を見ると、修平の後姿は変わらずそこにある。


 運転しながら、いきなり人が消えるはずなどないのに。


 しかし。


 その姿が見えているにも関わらず、気配を感じない気がした。


「そうだね…」


 あっ。


 静かな静かな修平の声に、早紀の首筋がぞくっとした。


 ぞわっと、の方が近いか。


 とにかく、悪い感覚がいっぱい早紀の首筋にまとわりついたのだ。


 簡潔に言おう。


 修平が── いきなり、知らない人間になった気がした。



 ※



 それから。


 それから、どうなったかなんて、早紀は覚えていなかった。


 突然、目の前が暗くなって、考える力なんかこれっぽっちも残らなくて。


 そして、とにかく暗い暗い闇の中を泳いでいたのだ。


 そんな闇の中から、彼女の意識が引っ張りあげられたのは、硬い床を歩く足音が、鼓膜に響いたから。


 しかし、目を開けてもそこは闇だった。


 かび臭さと冷たさでいっぱいの空間。


 早紀は、自分が冷たく固い床に、片方の耳を押し付けるように倒れていたことを知った。


 なん、で?


 慌てて起き上がろうとするが、身体に力が入らない。


 というより、腕が妙に痛いし、自由に動かせない。


 どうやら、縛られているようだ。


 なんで、私…。


 イモムシのようなだらしない状態で、早紀は近づいてくる足音へ、顎を動かすので精一杯だった。


 覚醒そのものも、完全ではないせいで、頭もぼんやりする。


「さあ……約束だ。見せておくれ」


 かすかな明かりが見えた。


 そこに扉があるらしく、下の少しの隙間から、明かりが入ってきたのだ。

 

 声を出して呼びかけたかったはずなのに、逆に早紀は息を飲んでこらえた。


 聞こえてきた声が──修平のものだったのだ。


 ぼんやりする頭でも分かった。


 彼に助けを求めてはいけない、と。


 何故か。


 それは、いま自分がこんなところに転がっている「何故」と、つながっているからだ。


 混乱する記憶の中で、最後に感じたあの違和感。


 いままで優しいお兄さんみたいな存在だと思っていたのが、ああもあっけなく簡単に違う生き物になるなんて。


 きぃ。


 ドアの開く音。


 どきっとしたが、開いたのは早紀のいるドアではなかった。


 おそらく、向かいのドア。


 下から差し込んでいた明かりが、遠ざかってゆくから。


 何をしてるんだろう。


 そして。


 自分は、なぜこんな有様なのだろう。


 ほんの微かな明かりの尻尾を眺めながら、早紀は不安と疑問と一緒に縛り付けられているのだった。



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