二人のサディスティックな主
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「余計なことは言うな」
真理のこの言葉こそ、余計だった。
早紀が、魔族の縄張り争いや、戦いだの家柄だのに、余計な知識など持っているはずもないし、口を挟めるはずなどないのだから。
こういう言葉を面と向かって言われると、自分はまったく真理に信用されていないのだと分かる。
信用、などという関係が、今後構築できるとも思いづらい。
その事実は、早紀を憂鬱にするのだ。
空蝕が来る度に、こんな関係のまま戦いに出なければならないのだから。
せめて鎧さんくらい、話の出来る相手ならなあ。
早紀は、いっそ夢の中の男が恋しくなった。
もし彼とならば、きっともっと軽く話をしながら、一緒にいられるんじゃないかと思ったからだ。
しかし、彼と同じものになっていながら、会えるのは夢の中だけ。
痛みから助けてもらった恩以来、早紀はすっかり彼の存在を頼りにしていた。
結局、真理は苦しむ早紀を放っておいただけ。
その差は、彼女の中では大きかったのだ。
これから。
真理と出撃する度に、この不信感は膨れあがっていくのだろうか。
少なくとも、早紀は自分のステルスを切れない気がした。
あの能力こそが、自分を守れるものなのだ。
な、の、に。
な、の、に、だ。
黙り込んだ早紀に、彼はこんなことを言ったのだ。
「ステルスの、オンオフを自由に切り替えられるようにしておけ」
時が、一瞬止まった。
それは、また彼にオフを命じられるという意味で。
ピシッと言う音を、早紀は聞いた。
自分と真理の間の何かが、そんな音を立てたのだ。
はいも、いいえも――答えられなかった。
※
「何だ?」
夢の中。
早紀が、じーっと鎧の男を見ていたので、怪訝な声を返されてしまった。
「ううん…鎧さんの方が、よっぽどいい男に見えてきた」
はぁーっとため息をつきながら、彼女は本音を漏らす。
毎晩、こうして会っているが、鎧の男は決して早紀を疎んじない。
「そりゃ、光栄だ」
ニヤつく声も、慣れればなんてことない。
氷柱みたいな真理の声に比べたら、いっそ温かく感じるほど。
「なんかもう…ずっと、こっちにいられればいいのに」
起きて、真理に会うのが憂鬱だ。
平日は学校へ行くために、必ず同じ車なのだから。
「………」
早紀の言葉に、鎧は少し黙り込む。
何のコメントもないことが意外で、彼を見やると。
「先代の、魔女の話をしてやろうか?」
出てきた言葉は、少し噛みあわないもの。
これまでの話の流れで、先代が出てくるのは奇妙だった。
しかし、興味はある。
こくこくと頷くと、鎧はその兜を反射させた。
「いい…女だったぜ。極上のたっぷりの魔力、極上の能力」
ゆっくり、ゆっくりとした言葉。
思い出している声だが──それは、何だか奇妙な思い出し方に感じた。
「先代の魔女は、オレと契約を失敗した…意味が分かるか?」
『いやよ! 死にたくないわ!』
夢の中に反響する、絶叫。
それに、早紀はびくっと身を固くしてしまった。
すぐそこに、先代の魔女とやらが、いるように錯覚してしまったのだ。
「かくして魔女は、この世界に閉じ込められ…死ぬまでオレと暮らしましたとさ」
『出して! 私をここから出して!! 痛いっ! 痛いわ!!』
苦痛による叫び。
その苦痛は、早紀の知っているものだった。
つい先日、同じような悲鳴をあげさせられたのだから。
「昔話は、こんなとこか…で、何の話をしていたっけな?」
ニヤつく声で、早紀に向き直る鎧は──とても意地の悪そうな声を出したのだった。




