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極東4th  作者: 霧島まるは
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同じ立場

 真理と一緒に、登校する。


 車から、彼らが降りた瞬間。


「鹿島さまぁ~」


 突然、女生徒たちが、真理に向かって襲い掛かってくるではないか。


 その勢いに、早紀はぽいっちょと、群れから放り出された。


 いたた。


 何事かと、少し離れてその喧騒を見る。


 真理は、確かに綺麗ではあるが、学校でこんな歓迎を受けたのは初めてだ。


 毎日一緒に通っているのだから、確かだった。


「……おはようございます」


 異様な事態を見ていた早紀は、その声が自分に向けられたものだとは、すぐには分からなかった。


 何しろ、学校で彼女に声をかける人間など、皆無だからだ。


「え? あ? おはようございますっ」


 はっと気づいて、声の方を振り返る。


 ガラス玉のような目──零子、と呼ばれる女性だった。


 あ、トゥーイさんちの。


 階級など、よくわかっていないので、頭の中でそんな言葉を並べる。


 きょろきょろと周囲を見るのは、あの独特の目の男が、一緒にいるのではないかと思ったから。


「ご主人様なら…あちらに」


 手を捧げるように指す先には、やはり女生徒に囲まれるトゥーイの姿が。


 えーと。


「黒い涙が降りましたから…みな、喜んでいるのでしょう」


 他人事のように、零子はぼんやりと言葉にする。


 はあ、なるほど。


 痛みで余り覚えてはいないが、先日の初陣は、確か魔族側の勝利だったはず。


 確かに、涙が黒く染まっていた気がする。


「でも、女ばかりですね」


 早紀は、苦笑した。


 そんなに嬉しいのなら、男も来てよさそうなものだが。


 これではまるで、あの真理がアイドルのようだ。


 本人は、さぞや閉口していることだろう。


 そんな早紀の、何気ない言葉に。


「男は…子供を産めませんから」


 さらりと──零子は、恐ろしいことを口にしたのだった。



 ※



「こ…子供?」


 現実味のない単語を、早紀は繰り返していた。


「ええ…次の鎧を、継ぐ者が必要ですから」


 しかし、零子は当たり前のように言葉を続ける。


 んーと。


 早紀は、出来るだけ彼女の言葉を、オブラートにくるんで考えることにした。


 要するに。


 真理を囲んでいる女性たちは――彼のお嫁さん候補、ということか。


 なるほど。


 だが、納得はするものの、ひっかかるところもある。


「でも、何で前から騒がなかったのかなあ」


 真理が、鎧の継承者であることが、隠されてでもいたのだろうか。


「先日の戦いで、これからしばらく魔族の勝利を確信したからでしょう…魔女は強い者が好きですから」


 さりげなく、零子は容赦なかった。


 ぷっ。


 意味を理解した早紀は、軽く吹き出してしまう。


 階級が高いだけでは、魔女は群がらない、と。


 あの真理が、いままで彼女らに品定めされていたと言うのだ。


 ようやく、お眼鏡にかなったというところか。


 その栄誉の歓迎を、真理は押し退けるように校舎へと向かってしまった。


 トゥーイは、まだ囲まれたまま。


 だからだろうか。


 零子は、ここを離れる様子はない。


 ガラス玉のような瞳で、魔女たちを見ている。


「お嫁さん候補に…興味あります?」


 早紀は、ちょっとだけ気になった。


 彼女の瞳は、トゥーイというより、そっち中心に向いている気がしたからだ。


「そうですね…死ぬまで一緒に暮らす人になりますから」


 淡々と、零子は答える。


 そっかあ、奥さんになる人とこの人は、一緒に暮らさなきゃいけな……あれ


 え?


 いま考えていたことは、零子だけの問題ではなかったのだ。


 間違いなく――早紀も同じ立場だった。



 ※



 何と言う、小姑プレイ。


 早紀は、どんよりしながら授業を受けていた。


 朝の零子との会話が、頭にこびりついて離れないのだ。


 キツそうな人、多いんだよなあ。


 穏やかとか優しそうなとか、そういう肩書きを持っている女性とは、なかなか出会えない。


 何しろ、この学校の女性は、みな魔女だというのだから。


 零子も、ぼんやりとしてはいるが、ボケというわけではない。


 戦いの関係で、魔力を消耗していることで、あの気だるさが出ている可能性もあった。


 その証拠に、今朝の状況判断は的確だ。


 魔女たちの考えも分かっているし、鎧の持ち主が、早く子孫を残さなければいけないことも──妻になる人間と、自分が暮らす必要があることも、きちんと把握していたのだから。


 絶対、いじめられる。


 真理に鎧としてコキ使われ、その妻にいじめられる図は、容易に想像が出来た。


 強制的に鎧にさせられた早紀は、自分の今後一生全部を、真理に捧げなければならないことまで、深く考えてはいなかったのだ。


 屋敷を出て、一人で暮らす。


 そんな、ささやかな考えも、簡単に吹き飛んでしまった。


 どこかに、優しくて階級の高そうな魔女っていないかなあ。


 早紀は、ロークラスしか知らない。


 いわゆる、庶民の魔族のクラスだ。


 そのせいもあって、本当にみな風変わりで怖い。


 一方、ハイクラスの生徒たちとは、口をきくのも考えられなかった。


 もし真理が親戚ではなく、一緒に暮らしていなかったら、やはり口はきけなかっただろう。


 真理のことだから、きっと家柄は重視するだろうなあ。


 となると、ハイクラスの相手に間違いない。


 せめて。


 せめて、私を無視してくれる人ならマシ。


 そこまで考えて。


 早紀は、はたと思い当たることがあった。


 あれ、そう言えば私、人に無視される能力があったような。


 結構──それは、便利かもしれない。


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