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極東4th  作者: 霧島まるは
25/162

から

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 夜のうちに、真理は何箇所かに連絡をした。


 だが、必要な答えは返ってこなかった。


 早紀の傷について、だ。


 鎧を持つ者たちは、みな特権階級の選ばれし者たちで。


 真理のカシュメル家も含め、彼らは血族主義であるために、外部と鎧の情報を共有しようという気など、さらさらない。


 だから。


 その中でも、更に少ない憑き魔女の情報など、手に入れようもなかった。


 一瞬。


 頭に、トゥーイの顔がよぎる。


 彼なら身近で、同じ憑き魔女を抱えている。


 しかし。


 真理が、彼に教えを請うなど──ありえなかった。


 意外と、夜が明ければ、あっさり治っているようなものなのかもしれない。


 トゥーイの憑き魔女も、一年鎧の役を引き受けているが、未だに登校しているではないか。


 様子だけは、見てくるか。


 朝、真理は早紀の部屋に向かうことにしたのだ。


 彼女の部屋の前に立ち、澱むことなくノックをした。


 返事はない。


 まだ、寝ているのだろうか。


 あるいは、やはり怪我が治っていないのか。


 普段の生活ならば、起きていてもおかしくない時間なのだが。


 真理は、鎧の主として当然のごとく扉を開けた。


 そして見たのだ。


 早紀は──ベッドの上に座っているのを。


 起き上がれるのか。


 その事実に、まずひとつ安堵する。


 痛がっているような様子はない。


 しかし、同時に違和感にも気づく。


 ならばなぜ、ノックに返事をしない。


 そして、何故。 


 こっちを見ない。


 真理は、ツカツカとベッドへと近づいた。


「おい…」


 その肩に手をかけると。


 まるで、紙のように早紀はベッドへと仰向けに倒れたのだ。


 瞳は、ちゃんと開いている。


 しかし──ガラス玉のように、何も映してはいなかった。



 ※



 いつもの存在感の薄さとは、まったく違う。


 生気そのものが、希薄になってしまっている。


 まるで。


 大量の、魔力を抜かれたかのように。


 まさか。


 真理は、抜け殻になった早紀の胸元を開いた。


 傷は──ほぼ、なかった。


 金の糸ほどの、痕跡が残っているだけ。


 この傷が、早紀の魔力を吸い取ったのかどうかは分からない。


 しかし、いまの彼女は、「一応」生きているとしか言えないほど、魔力が枯渇しかけていた。


「……っ」


 真理は、頭を抱えた。


 大きな、葛藤があるのだ。


 彼は、鎧の主で。


 この早紀の主で。


 そして、偉大なるカシュメル家直系の主でもある。


 その真理が、どうして下僕のために、力を尽くす必要があるのか、と。


 しかし、もしこの状態で、彼女が鎧になれなかったなら、真理は戦いに出られなくなる。


 ならば、他の誰かの魔力を。


 だが、自分より下に見ている相手に、魔力を分けてやるようなお人よしなど、カシュメル家の一族にはいない。


 勿論、主である真理が命令すれば従いはするが、自尊心を深く傷つけられるだろう。


 使用人たちは、かろうじて魔族と言える程度の低階級のものばかりで、早紀に分けるほどの魔力があるかも怪しいものだ。


 深い眉間の皺の間で、葛藤と戦っていた彼は。


 ついに、ベッドから離れた。


 扉に向かって足を踏み出す。


 開いたままの扉に手をかけ。


 真理はそれを──部屋の内側から閉ざした。


 ご丁寧に、魔力でカギをかける。


 そして再び、早紀の元へと戻ったのだ。


 これから。


 これから真理がすることは、誰にも知られてはならなかった。


 カシュメルの名において。


 主が下僕に──魔力を分けてやるなど!



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