激痛
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早紀の身体でもあるはずなのに、信じられない速さと力で、真理が自分を操る。
早送りの、アクション映画を見ているような光景だ。
だが、これは映画ではなかった。
早紀は、それを身を持って思い知ることとなる。
敵の刃の切っ先を、皮一枚よけきれなかった瞬間。
……!!
声にもならない悲鳴を、あげさせられたのだ。
い、痛い――なんてものじゃなかった。
掠めた胸の辺りに、引き裂かれたような熱と激痛が走ったのだ。
こらえきれずのけぞった動きは、鎧全体を連動させた。
『うご…くなっ!』
その身体の主導権を、即座に真理に奪い返される。
『痛い! 痛い!!』
小さなケガ以外、経験のない早紀には、こらえがたい痛みだった。
『うご…!』
再度。
真理は、彼女を制そうとしたのだろう。
だが、それより速いものがあった。
自分に振り下ろされる――刃。
痛い!
それは、予測される激痛への予告的反射。
現実の痛みを知ってしまった早紀に、その恐怖は我慢できなかった。
が。
「助太刀にきたのかね…それとも、足を引っ張りにきたのかね」
目の前に散ったのは――黒い羽。
敵の一撃は、ベルガーの細い剣がいなしていたのだ。
その瞬間。
恥と怒りが、早紀を覆った。
自分の中に、あったものではない。
真理から、放出されたものだ。
「大体…」
ベルガーは打ち合いながらも静かな声で続ける。
「有用な力を持っているというのに、それを使役しないのは…戦いを愚弄しているのか?」
真理の心を、なお乱れさせる──とどめの一言だった。