オフモード
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少し――分かった。
早紀という鎧の扱いを、だ。
精神のリンクが切れている時の彼女は、ステルスモード。
自分の心さえも、真理から隠すのだ。
低次元な雑多な感覚が、流れ込んでこないのはありがたいが、ずっとステルスモードなのは困ることもある。
それを、さっきイデルグに言われたのだ。
ステルスが故に、蝕の番が出来ない、と。
自由にオン、オフが出来なければ、不便なのだ。
それに。
ステルスは、早紀の能力で。
これのみに頼って勝ったところで、真理には勝利への充実感を感じられなかったのだ。
さっきの一撃で、それに気付いた。
勿論、必要なところでは使う。
だが。
取り敢えず次は、真理の力で敵を落とす。
『あわわ…切れた? 切れたの?』
早紀の、慌てた声を聞きながら、真理はベルガーの脇を擦り抜けた。
向こうから、突っ込んでくる、一体の金の鎧。
天族だ。
だが、この名前は遠からず忘れることになる。
自分たちが滅ぼすからだ。
真理は、そういう魔族至上主義の教育を受けてきた。
だからこそ。
前回の、大空蝕の敗北は、限りない汚点なのだ。
真理は、気に入らない形の刀を振り上げた。
打ち合う。
鎧の全身に、その振動が伝わった。
一瞬、ぐわんっと鐘が鳴ったような共鳴を引き起こす。
打ち負けはしなかったが、腕がきしんだ。
みしっ。
真理は、その腕をなおきしませる。
跳ね、返した。
一秒にも、満たない間の――攻防だった。