表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極東4th  作者: 霧島まるは
20/162

ふじこ

---

 真理が、戦いたがっている。


 鎧となって彼を包みながら、早紀はそれを内部から強く感じていた。


 自分の内部、というものは二つある。


 真理のいる部分と──おそらく、あの鎧の男がいる部分、だ。


 その両方が、この初陣を心待ちにしていたことが伝わってくる。


 一瞬、それらが自分のものであるかと、錯覚するほど近く。


 事実。


 その感覚に、強く捕らわれていたせいか、引け腰になったり、怯えたりする余裕はなかった。


 自分の元の性格を考えると、かなりの部分で彼らとシンクロしていなければ、ありえない状態だ。


 そのシンクロの高さのせいか、空蝕に向かって飛ぶ時の自分の身体は、とても軽く感じる。


 そして、そして、蝕が一体なんなのか──半本能的に感じることが出来たのだ。


 鎧の知識だったのか、真理の知識だったのか。


 どちらかは、分からないのだが。


 空蝕。


 エネルギーの塊。


 蝕の終わりに落ちる、ひとひらの『涙』の奪い合い。


 敵。


 金の者。


 青の者。


 意識の中には、金色がたくさんたくさん流れ込んでくる。


 時折、青が掠める程度。


 早紀の視界には、夜空で打ち合う黒い鎧と、もう一人が見えた。


 金!


 ぶつかり合った火花が、鮮やかにそれを見せる。


 迷わないのは、真理。


 その二つの鍔迫り合いに、割って入る気だ。


 首筋が、ぞくっとした。


 固いはずの鎧の首が、一瞬、冷たいゼリーにでもなった気がしたのだ。


 真理は、そのゼリーから、もっと冷たいものを引き抜いた。


 自分の身体から奪われる、長く、曲がったもの。


 トプンッ。


 首筋は、そんな水音をたてた。


 真理から、失望のような感覚が届いたのと──ほぼ同時のことだった。



 ※



 振り上げられる、刃の残像。


 金の鎧の背を、真理が斬り付ける。


 早紀は、それを見ていた。


 突然の一撃に、敵は墜落してゆく。


 金の鎧もやはり、この鎧の存在に気付けなかったのか。


 でなければ、こうも簡単に斬り付けられるはずがない。


「ああ、やっぱりカシュメル卿か…」


 先に戦っていた魔族が、真理の横についた。


 1st――イデルグ卿。


 真理から伝わる、表層の情報。


 がっしりとした、重戦車のような鎧だ。


 しかし、鈍重な動きでなかった。


「横槍、失礼しました」


 真理が、控えめな一言を口にする。


 昼間のトゥーイという男との態度が違うのは、やはり相手が1stだからなのか。


「気にするな…落としたらそれでいい。ベルガー卿なら、イヤミのひとつも言うだろうがな…おっと、噂をすれば、その2nd様だ」


 下方から飛んでくる鎧を、1stが見下ろした。


 しかし、そこでもすぐに火花が上がる。


 同じように遅れてきた、金色の方と接触したのだ。


 しかし、金の方が2体見える。


「カシュメル卿…イヤミを言われに、行ってくれるか?」


 イデルグは、下の戦いを指した。


「お前さんの鎧は、すぐ存在を消してしまうから…蝕の番人には向かない」


 そして、顎を上に向ける。


 黒い夜空を、少しずつ闇が侵食していっている。


 まだ、いまは三日月のような形だ。


 これが球体になり、そしてまた小さくなっていくのだろう。


「分かりました」


 真理は。


 答えるや、急降下した。


 突然の垂直落下だったが、早紀は絶叫したりしない。


 それどころか。


 真理と鎧の二人がかりで戦意を煽られていて──すっかり、頭に血が昇ったままだった。



 ※



 2nd──ベルガーの鎧は、なんというか豪華だった。


 金属の鎧だというのに、黒い羽の飾りがたくさんついているのだ。


 その羽を散らしながら、金の鎧と打ち合う。


 しかも、2体相手に、だ。


 細い細い、まるで針のような剣が閃いた。


『……切れ』


 その戦いに、真理がさっきのようにすぐに飛び込むかと思ったら。


 一度動きを止め、彼はそう言うのだ。


 言葉ではなく、早紀に直接伝える感覚で。


 え?


 切れって…何を?


 自分に言われているのは分かるが、すぐに反応できない。


 二人の感覚のせいで、冷静な判断力などいまの彼女にはないのだ。


『ステルスを…切れ』


 もう一度。


 今度は、省略なしで言われた。


 ステルス──この、存在を感じさせなくなる能力のことだろうか。


 鎧の存在を、周囲に分かるようにしろ、ということのようだ。


 ベルガーへの気遣いなのか、はたまた正々堂々と勝負をしたいのか。


 どんな考えからの言葉かは分からないが、いまの真理にはいらないようだ。


 だが、更に分からないことがあった。


 どうやればこの能力を外せるのか──


 いつも、無意識でばかりやっているのだから。


『叫べ…』


 真理が、ぼそりと呟いた。


『怒鳴れ…』


 少し、音量が上がった。


 一瞬の間。


『わめきちらせ!』


 早紀の全身に反響するような、大きな音になる。


 興奮状態だった彼女は、それに飛び跳ねるほどびっくりした。


 反射的に。


『あsdrふじこ!!!』


 意味不明の、大声を上げてしまう。


 あわっ、なんか、へんな、声、出た。


 早紀は、口を押さえようとしたが、鎧の右手をわずかに動かしただけでとどめられる。


『ああ…つながったか』


 少しうるさそうに、しかし、納得したように──真理は呟いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ